安倍晋三首相は29日の記者会見で、3月2日から春休みまで全国の小中高校に一斉休校を要請したことについて「万が一にも学校で子供たちへの集団感染のような事態を起こしてはならない」と説明したが、長期間に及ぶ休校を判断した根拠は示さなかった。10日程度での第2弾の緊急対応策のとりまとめや、休校に伴う保護者の休職などに対応する新たな助成金制度の創設など対策を列挙したが、いずれも具体的な内容の説明は避けた。独断で休校要請に踏み切った首相だが、準備不足は否めない。
会見が行われたのは、27日に休校要請を表明してから2日後。記者団から「なぜ27日のうちに政府から詳しい説明がなかったか」と問われた首相は「判断に時間を割くいとまはなかった。十分な説明がなかったのはその通り」と釈明した。
もともと与党からは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国民の不安が広がる中、「首相が説明すべきだ」との声が噴出していた。ところが首相官邸は「それだけは応じられない」と突っぱね続けた。衆院で来年度予算案の審議の最中に、質問が桜を見る会や東京高検検事長の定年延長問題まで及べば、政権のダメージになりかねないとの判断があったためとみられる。だが、休校要請で教育現場の混乱を招き、首相は会見に応じざるを得なかった。政府に会見開催を求めていた公明党の斉藤鉄夫幹事長は「直接国民に呼びかけたことは評価したい」と述べた。
会見内容は乏しい。首相が繰り返したのは「これから1、2週間が瀬戸際」という専門家の見解だ。政府の専門家会議は25日の時点でこうした見解を公表したがすでに4日が経過している。休校要請については「断腸の思い」と感傷的に語ったものの、なぜ1カ月にもわたる休校が必要なのかの説明は具体性を欠いた。
首相は「あらゆる手を尽くす」と強調。10日程度で緊急対応策をとりまとめる方針を示し、保護者の休職に伴う所得減少に対応する新助成金制度創設も掲げた。だが、いずれも政府の検討はこれからだ。「あらゆる可能性を想定し、国民生活への影響を最小とするため、立法措置を早急に進める」と強調し野党にも協力を求めたものの、法案の方向性についての言及はなかった。会見で示したPCR検査（遺伝子検査）の保険適用は厚生労働省が方向性を打ち出しており、新味を欠いた。
記者団からこれまでの対応の反省点を問われた首相は「常に正しい判断だったか、私自身も含めて教訓を学びながら自ら顧みることも大切だ」と抽象的な表現にとどめた。与党からは「国民に相当な心配や不安があり、首相が一度会見したからといって大きな変化はないだろう。世論の動揺がおさまるのは簡単ではない」との声が漏れる。自民党のベテランは「なぜ唐突に休校要請をしたのかとみんな思っていたから、首相が説明したのは良かった。だが、評価されるのは時間がかかる」とこぼした。【野口武則】
2020-02-29 12:02:21Z
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