緊急事態宣言を受けた兵庫県による休業要請の対象とされながら、一部のパチンコ店が営業を続けている。県内では22日現在、64店が営業しており、オープン前には行列もできている。業界団体はクラスター(感染者集団)の発生やイメージダウンを防ごうと、電話や文書で休業をお願いするものの、応じない事業者も少なくない。県は実名公表も視野に入れるが、閉められないホール側の事情もある。
「お金をいただいておいてなんですが」。井戸敏三知事は20日に県庁内の一室でこう切り出した。相手は県遊技業協同組合(神戸市中央区、加盟383店)の幹部たち。新型コロナウイルス対策の寄付金300万円を手渡すために訪れたのだが、その場で井戸知事から「休業の要請をぜひともお願いします」と頼まれたのだった。井戸知事の表情は穏やかだったが、組合幹部らは「放っておけない」と緊張感を強めた。
パチンコ店の開業などで許認可権を持つ県警からは「要請はしづらい」と言われ、県としては組合が頼みの綱だ。組合は緊急事態宣言が発令された7日と、休業要請に応じた事業者へ最高で100万円を出す県の支援金制度が発表された17日、加盟店に文書で休業を要請した。それでも、非加盟の1店を含む64店が営業を続ける。
井戸知事から“直談判”を受けた形となった組合は21日、早速動いた。営業を続ける店舗に休業を強く訴える文書を再び出し、電話でも「万が一、クラスターが発生したらどうするのか」と事業主に説得を重ねた。その結果、25日にはオープンを続ける加盟店数は49にまで減る見込みだ。しかし目標とする全店休業には至っていない。
1日売り上げ1000万円も「居酒屋とは比べものにならない」
休業に踏み切れない事情もある。組合によると、家賃や人件費などの固定費がネックだという。事業者によっては、街中の広いホールと多くの従業員を抱え、家賃だけでも月1000万円を超えることもある。売り上げが1日1000万円にも達することもあるといい、「動く金額が居酒屋とは比べものにならない」(業界関係者)という。休業に応じて国や県から公金をもらっても「焼け石に水」というわけだ。店内を消毒するなど感染予防の対策を講じているという。
組合の甚田郁雄専務理事は「このままでは業界全体が世間からバッシングを浴びてしまう。『苦しいのはどこも一緒だ』と呼びかけてはいるが、目の前の生活もあり、足並みをそろえるのは難しい」と嘆く。業界関係者からは「情けない話だが、店を一律に閉じるには強制力に頼るしかないのではないか」と漏らす。
依存症の心配も
パチンコ店の利用者を心配する声も出ている。かつて自らがギャンブル依存症に苦しみ、現在は依存症の人や家族を支援する一般財団法人「ワンネスグループ」(本部・沖縄県)の三宅隆之共同代表は「感染リスクがあると分かっていながら『やることがない』という表向きの理由だけで店に行く人は、依存的な要素がある。そういう行動に気づけるのは周囲の人だけ。とがめるのではなく、『健康が害されるかもしれないから心配だ』とメッセージを送り、本人の行動が変わるように仕向けてほしい」と呼び掛ける。
井戸知事は21日の記者会見で「(休業)要請に応えられているのは当たり前のこと」との認識を示した。その上で今週中にも、営業を続ける店舗について、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法45条2項の適用について判断し、店名を公表する考えを表明した。通報が寄せられる県のコールセンターの電話は鳴り続けている。【藤顕一郎】
2020-04-22 09:51:20Z
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