キツい運動でバトルをしながらRPGのような冒険をする『リングフィット アドベンチャー』では、攻撃に腕・腹・脚といった属性がついている。しかもそれがビームになって攻撃するのだ。ちょっとおかしな話だろう。
そもそもゲームではおもしろさを表現するために荒唐無稽な表現が用いられる。それをうまくプレイヤーに納得させなければならないわけだが、その解決方法のひとつとしてエフェクトが存在するのだ。この記事では「CEDEC 2020」のそんなセッションをレポートしていこう。
『リングフィット アドベンチャー』におけるエフェクトの課題
セッション「『リングフィット アドベンチャー』~新しいデバイスのインタラクションをエフェクトで~」では、任天堂の企画制作部アーティストでエフェクト統括を担当した井上圭次郎氏、そして同じく企画制作部アーティストで本作ではエフェクトアーティストとなる平松潤也氏がスピーカーとして登壇した。
『リングフィット アドベンチャー』はリングコンで運動するゲームであり、非常にダイナミックかつ連続的なアナログ操作になる。しかも新しい作品なのでユーザーがつまづいてしまう可能性もあり、エフェクトでそれらを解決したいわけだ。
エフェクトはプレイヤーにフィードバックを伝える役割がある。たとえば成功・失敗でそれぞれのエフェクトを出したり、あるいはうまく続けている際にエフェクトが豪華になれば、プレイヤーは結果を理解しやすい。単にプレイヤーが操作するだけでなく、インタラクション(ゲーム側からも相互的に反応を返すこと)が大事なわけだ。
しかし、懸念もある。0 or 1のデジタルなフィードバックならば成功・失敗でエフェクトを出すといったようにいろいろ利用できるのだが、アナログ入力の場合はエフェクトよりもキャラクターやUI(ユーザーインターフェース)で処理されるケースが多いという。
しかも『リングフィット アドベンチャー』は押す・引くのみならず力の幅があったり、アナログさもかなりのもの。おまけにフィットネスとファンタジーをかけ合わせた珍しいコンセプトで、これも大事にしたい。このように、一口にエフェクトをつけるといっても課題の多いケースだった。
アナログなインタラクションでとにかく褒める
続いて、エフェクトが抜けた状態のゲーム映像が流れた。エフェクトがないと気持ちのいい反応が欲しくなるし、そもそも「どこに力を入れればいいのか?」だとか「正しく運動ができていたか?」といったポイントがわかりづらくなってしまう。
そもそも通常のフィットネスジムであれば、インストラクターに細かく指摘してくれるわけだ。ついでに何を意識すべきか教えてくれたり、あるいは頑張りに応じて褒めてくれることもある。最後はリングの声で処理できることだが、ほかの部分はビジュアルで表現しなければならない。やはり、そういう部分でエフェクトによるインタラクションが必要なわけだ。
まずはエフェクトで運動を評価したいのだが、いきなり試練が訪れる。前述のようにリングコンは非常にアナログな入力なので状態が複雑だし、プレイヤーの姿勢もよく変わるので扱いが難しい。そこでアナログな入力に対してアナログなインタラクションを返す方法、通称「アナログインタラクション」で解決を図ることになった。
たとえば力の入れ方に合わせて変化する球体(スムージー作成シーンでも採用されている)を作る場合、リングコンの入力値をVAT(VertexAnimationTexture)で再生する。つまり、アナログな値をシミュレート・再生してエフェクトにし、インタラクションに活用しようというわけだ。
同様に、フィットネスを行うとキャラクターの部位が発光するわけだが、これもリングコンやレッグバンドから「がんばり率」を算出し、エフェクトに反映する。もちろん、より頑張ればエフェクトもより豪華になる仕組みだ。運動によってもたらされた入力を一度がんばり率などに変換することによって、このアナログインタラクションを成立させているという。
また、がんばり率によってどの程度エフェクトが変化するかも設定が重要となる。通常であればがんばり率の数値に応じて徐々にエフェクトが強くなるわけだが、実際にプレイしてみると人間の感覚とは異なってしまうとのこと。むしろ運動をはじめた序盤で一気にエフェクトが派手になることによって、感覚と合致するそうだ。
エフェクトによって使う部位を意識させるのにも成功した。「腹筋ガード」は腕でリングコンを押しがちになるのだが、腹筋型の盾のようなエフェクトをつけることでプレイヤーはお腹を意識できるようになる。同様に、腕・脚それぞれを使うシーンでは応じたエフェクトが用意されているのだ。
『リングフィット アドベンチャー』の運動はキツい。ゆえにしんどさに見合うリターンとして「褒め」が必要だ。ステージクリア時のビクトリーポーズでものすごく派手なエフェクトが出ると嬉しくなって運動が続くように、同様の仕掛けが随所に用意されている。
たとえば道中でリングコンを押すと空気砲を発射できる。しかも強く押せば押すほど豪華なものが遠くに飛んでいく。ただし遠くに飛ぶと空気砲が遠近法で小さく見えてしまうので、あえて遠くに飛ぶほど大きく見えるよう、気持ちよさ優先のトリックも仕込まれているという。
スクワットをする際も、ただ光るだけではいけない。しっかり膝を曲げてがんばり率がマックスになると一瞬だけさらに光り、キープ時間が最大になった瞬間にもまたエフェクトが発生。複数の要素を組み合わせることで、ゲーム内で発生していることがさらに理解しやすくなるわけだ。
このようにエフェクトでインタラクションを強化することを、セッションでは「フィードバックの解像度をあげる」と表現していた。『リングフィット アドベンチャー』は運動とゲームが混ざらないという問題を抱えていたわけで、それでもキツい運動を楽しいと思わせるエフェクトの効果はとても大きいものといえる。
続いて、キャラクターの髪の毛をどう表現するかの話題に移る。『リングフィット アドベンチャー』の主人公の髪は、燃えている炎のようでさらに揺れている。しかも運動によって変化する(より燃える)仕組みもあるのだ。参考にできるようなものも実在しない。
しかし、「決まった形状のないモチーフを形にする」のはエフェクトアーティストの得意分野である。まずは“根本がぬるぬるで先がパキパキ”なイメージを手書きアニメで再現。この2Dアニメを3Dにするわけだが、ここで高度な物理現象のシミュレーション機能を有する3DCGソフトウェア「Houdini(フーディニ)」が役に立つ。
まずはアニメのテクスチャをハイトマップ化。HeightField SOPで立体化し、Boolean SOPで立体部分を残す。さらにMirror SOPで左右対称にし、固定トポロジに接続。三角関数でカーブを作り、横の動きをつける。このようにHoudiniは「作り方を作れる」ツールとして重要になるという。
また、作成した髪の毛はエフェクトではなくキャラモデルとして実装。これによりモデル担当者が仕上げやすく、さらに風やアクションで揺れる処理も行えたという。このほかにもキャラクターの重力方向に垂れる汗、リングコンの発光部マテリアルなどをエフェクト班が担当。より世界が磨き上げられた。
どうして腹筋ビームで攻撃するんですか?
『リングフィット アドベンチャー』では運動をして敵を攻撃するのだが、そもそも「スクワットしたら敵にダメージが入るってどういうこと?」と思えるほど謎である。これをエフェクトによる攻撃表現でうまく繋げて違和感をなくさなければならない。かといって、派手な召喚獣を出すようなフィットネスと関係なさすぎる方法は採用できないわけだ。
開発初期は、運動をするとエネルギーの玉が大きくなって終わったあとに発射するような形式だった。しかし、運動の結果が即時反映されるほうがフィットネスと攻撃の一体感が出ることがわかり、表現が変化していく。しかも、属性という要素も追加された。
はじめは火・水・草といった属性に合わせてエネルギー玉の色を変化させればよいと考えていたものの、あるとき属性のモチーフが腕・腹・脚に変更。どう表現すればいいのか途方に暮れたそうだ。しかしながら、この難題を成功させればフィットネスゲームとしておもしろくなる感触もあったという。
プロデューサーからもエネルギー玉ではない納得感のある攻撃方法がほしいとリクエストがあったため、エネルギーの塊を部位形状にする「部位ビーム」が考えられた。実際、腕と脚はこれでよかったのだが、腹筋というさらなる問題が残ってしまった。
腹筋ビームで攻撃エフェクトを作ってみたところ、「腹筋のわかりにくさ ヤバいですね」なんて意見も出てしまうほど、意味不明。確かに開発中の画面だと「腹筋が動き回って攻撃するってなんなんだ?」となる。これを解決するため、ビームの形状を変化(腹筋だけでなく胸も入れる)、画面端でしっかり止めて腹筋らしさを視認できるように調整した。
さらに、ダルダルだったお腹がシックスパックに変化するアニメーション「腹筋モーフィング」を採用。アニメーションの情報で腹筋であることがわかりやすくなったうえ、ユーザーの腹筋を鍛える行為とマッチングし、さらにフィットネスの効果を想像させられたわけだ。おまけに奇妙なバカバカしさが発生し、むしろ世界観のヘンテコさを生かしたゲームの特徴になる。
ゲームではおかしな現象が起こりがちなわけで、それをうまく納得感に繋げるのもエフェクトの仕事のひとつだろう。部位ビームはキャラチームのモデリングの協力もあって、脂肪を燃焼するイメージや鍛えるイメージも追加され、製品版の形式になっていった。実際、私も『リングフィットアドベンチャー』を遊んでいるときに腹筋ビームで攻撃することに大して疑問を抱かなかったので、納得感がきちんと出せていたのだろう。
エフェクトは世界観を守りながら、ゲームのなかで繋がりにくいモノ・コトを柔軟に接着できるのが特長。インパクトがあるつつ世界観の伸びしろを提案できる重要なポイントなわけだ。
さまざまな技術によるエフェクトがもたらす可能性
最後に、実際のエフェクト制作事例も公開された。『リングフィット アドベンチャー』では「手書き風アニメーションエフェクト」とでも呼ぶのがふさわしいスタイライズド表現が用いられており、ディティールこそ少ないがアニメーションとして見やすい表現になっているという。また、手書き風アニメーションエフェクトにVAT Fluid、VAT Soft、ShaderGraphを組み合わせることにより、エフェクトの可能性が広がるそうだ。
『リングフィット アドベンチャー』のような新しいデバイス・ゲームコンセプト・世界観を持つ作品では、エフェクトが表現をわかりやすくするのみならず、表現の幅を広げたり、モノ・コトを接着するなどさまざまな活躍ができる。目に映るのは一瞬かもしれないが、そんなエフェクトがゲームをより楽しいものにしているのだろう。
2020-09-06 05:54:00Z
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