2021年05月04日09時00分
◆ゴルフジャーナリスト・舩越 園子◆
リッキー・ファウラーと言えば、米ゴルフ界屈指のスター選手だが、昨今は成績が低迷しており、今年4月のマスターズ出場が危ぶまれていた時、テレビ解説者のニック・ファルドは、ファウラーに辛辣(しんらつ)な言葉を投げ掛けた。
「リッキーはマスターズに出られなくても、その週にテレビCMを6本ぐらい撮影できる」
実力がなくても人気だけはあるとでも言いたかったのか。試合に出て賞金を稼げなくても、CM出演料でもうかるとでも言いたかったのか。
ファルドの言葉の真意をめぐって、米メディアもゴルフファンも、あれこれ取り沙汰していたが、嫌味を言われたファウラー自身は、こう言った。
「厳しい一言をあえて与えて、相手を触発し、モチベーション(意欲)を高める。これは典型的なアスリート同士のやりとりだ」
だから、ファルドのことを悪く思ってはいないし、前向きに受け取っているという意味なのだろう。ファウラーは、ファルドの皮肉を上手に受け流し、むしろファルドが人々から問題視されないよう、精いっぱいの気遣いをしていた。
そう、ファウラーは細やかな気遣いを忘れない選手だ。そして、どんなときも、誰に対しても、彼はとても優しい。
◆天にも昇る気持ち
今年3月。フロリダ州で開催された米ツアーのホンダ・クラシックの初日に、こんな出来事があった。
地元の高校に通う17歳のアンソニー君は、ボランティアとして選手たちとロープ内を一緒に歩くスコアボード係を務めることになっていた。
担当する組の選手たちは、彼にとっては、あまりなじみのない顔触れだったが、「前の組にリッキーがいる!僕はきょう1日、前のめりで歩いちゃいそうだ」と言っていた。
だが、スタート直前、大会側から「キミの担当は一つ前のファウラーの組に変わったと言われ、僕は天にも昇る気持ちになった」。アンソニー君の担当を一つ前の組へチェンジさせた人物は、驚くなかれ、ファウラーだった。
アンソニー君は幼い頃からファウラーが大好きで、いつもファウラーそっくりのオレンジ色のウエアに身を包んでゴルフをしていた。
だが、13歳の時に脳腫瘍と診断され、小児病院で長期の入院生活を余儀なくされた。そして2年前、重い傷病と闘う人々の願いをかなえるメイク・ア・ウィッシュ財団の尽力のおかげで、アンソニー君は米ツアーの大会会場で開かれたファウラーによるゴルフクリニックにゲスト参加することができた。
ファウラーと一緒に球を打ったり、ロープ内を歩いたりしたことは「生涯忘れない思い出になった」。
◆ちょっとした気遣い
その後、すっかり元気になったアンソニー君は、高校ではゴルフ部に所属し、自宅の近くで開催されたホンダ・クラシックでボランティアを務めようと応募した。もちろん、ファウラーと再会できることなど想像もしていなかった。
だが、ファウラーはそんなアンソニー君のことをよく覚えており、2人の再会を願って、アンソニー君の持ち場を変えてもらえるよう大会側に願い出たのだそうだ。
初日の1番ティーで、ファウラーはアンソニー君に「きょう1日、僕たちにしっかり付いて来いよ」とうれしそうな表情で声を掛け、アンソニー君は「もちろん!しっかり務めます」と、夢見心地で答えたそうだ。
ボランティア少年の担当部署を「変えてほしい」と大会側に依頼することは、選手にとっては「ちょっとした気遣い」だ。
だが、その「ちょっとした気遣い」が、ファンにとっては、ましてや病気を克服して必死に生きる少年にとっては、大きな励みになった。
CM撮影の依頼が何本あるか、メジャー大会に出られるかどうかはさておき、そういう気遣いができるからこそ、ファウラーは米国の国民的スターになり、成績が少々低迷しようとも、ビッグスターであり続けているのだと私は思うのだが、この話、果たしてファルドはどう感じるのだろうか。それが、ちょっぴり気になる。
(時事通信社「金融財政ビジネス」2021年4月19日号より) ![]()
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