米ロサンゼルスで27日夜に行われたアカデミー賞授賞式で、コメディアンのクリス・ロックさんを主演男優賞候補の俳優ウィル・スミスさんが壇上で平手打ちし、その後も座席から放送禁止の罵倒語を繰り返す騒ぎがあった。この後、スミスさんは「King Richard」(邦題「ドリームプラン」)の演技で主演男優賞を獲得した。
授賞式でロックさんは、スミスさんの妻ジェイダ・ピンケット=スミスさんの髪型について、「ジェイダ、『G.I.ジェーン2』が待ちきれないよ」と言った。
すると、スミスさんはゆっくりと壇上に上がり、ロックさんを勢いよく平手打ちした。ロックさんは笑いつつも驚いた様子で、「わあ、わあ、たったいまウィル・スミスにひっぱたかれたよ」と発言。座席に戻ったスミスさんは、「うちの妻の名前を口にするな」と、放送禁止用語を交えながら繰り返した。
スミスさんの妻、ジェイダ・ピンケット=スミスさんは以前から、脱毛症と闘っていることを公表していた。
スミスさんはこの後、テニスのセリーナとヴィーナス・ウィリアムズ姉妹を育てたリチャード・ウィリアムズを描いた演技で、主演男優賞に選ばれた。受賞スピーチでスミスさんは、「アカデミーに謝りたい。ほかの候補者全員に謝りたい」と述べた。
さらにスミスさんは、涙を流しながら、「芸術は人生を模倣する。リチャード・ウィリアムズをみんながあの父親は頭がおかしいと言ったのと同じで、今の自分もそう見えているんだろう。でも愛は人に、とんでもない狂ったまねをさせる」と話した。
スミスさんにたたかれた直後のロックさんは、呆然とした様子で、観客に「今のはテレビ史上最高の夜だったね」と言った後、ドキュメンタリー賞を発表した。ロックさんはそもそも、ドキュメンタリー賞発表のために壇上に上がっていた。
ロックさんピンケット=スミスさんに向けて口にしたジョークは、1997年の映画「G.I.ジェーン」にちなんだもの。デミ・ムーアさんが短髪で海軍特殊部隊兵を演じた。
ピンケット=スミスさんは2018年に最初に、脱毛症との闘いについて公表。「毛が抜け始めた時は、本当に怖かった」と話していた。
シャワーで「両手にごっそり毛が抜ける」ようになって、自分は脱毛症かもしれないと気づいたと話したピンケット=スミスさんは、「ああどうしよう、はげちゃうのかなと慌てた。文字通り、怖くて体が震えてしまった」と言い、そのために自分は髪を短くしているのだと説明していた。
放送と式典が再開されると、次の賞のプレゼンターをつとめたショーン・「ディディ」・コームズさんが、「ウィルとクリス、それは家族のように解決しよう。今は愛をこめて次に移る」と冒頭で述べた。
スミスさんはこの後の受賞スピーチで、「ついさっき、デンゼル(ワシントン)にこう言われた。『頂点に立った瞬間に気をつけろ、悪魔はまさに襲ってくる』んだと」と話した。
ロサンゼルス警察はのちに、業界紙ヴァラエティに対して、ロックさんは被害届を出さないことにしたと明らかにしたという。
授賞式を主宰する米映画芸術科学アカデミーはツイッターで、「どのような形の暴力も容認しない」と書いた。
ロックさんがオスカー(アカデミー賞)授賞式で、ピンケット=スミスさんについてからかうのは初めてではない。2016年の授賞式では、演技部門の候補者に多様性が欠如していると多くのスターが出席をボイコットした。この授賞式を司会したロックさんは、「ジェイダ・ピンケット=スミスがオスカーをボイコットするって、自分がリアーナのパンティーをボイコットするみたいなものだよ。そもそも招待されていないんだから!」と発言していた。
舞台裏でも衝撃――スティーヴン・マッキントッシュ芸能記者
ロサンゼルスはドルビー・シアターの舞台裏で、報道陣の間にも衝撃が走った。
受賞者が壇上の受賞スピーチの後に開く記者会見の最中だったが、誰もが式典の様子を映す頭上のスクリーンにくぎつけになった。なにか深刻な事態が始まったと分かったからだ。
最初は何かのジョークとか、寸劇なのかと思われた。ロックさんが自分の妻について「G.I.ジェーン」みたいだと言った後、スミスさんは最初は笑っていたようにさえ見えた。
ジェイダさんは不愉快そうな表情だったが、この時点ではまだ、何か事前に予定されたジョークなのだと思われていた。
しかし、スミスさんが席から立ち上がり、壇上でロックさんをたたいたことで、何事なのかと場内がざわつきはじめた。
もちろん2人とも映画とテレビの大ベテランなので、演技で平手打ちと見せかけることもお手の物だろう。ただし、演技には見えなかったと、誰もがいぶかしく思い始めた。
座席に戻ったスミスさんが、ロックさんに向かって「妻の名前をお前の(放送禁止用語)口にするな」と繰り返した時点で、これは決してコントではないと明らかになった。テレビの生放送中に、スミスさんほどのプロが放送禁止用語を口にするなど、あり得ない事態だからだ。
もちろん、アメリカ国内の視聴者がこの罵倒語を耳にすることはなかった。米ネットワークのABCは生放送をいったん中断したからだ(訳注:日本で中継していたWOWOWは生放送を続けた)。
受賞者の控室は、静まり返っていた。授賞式のスタッフも、報道陣と同じようにショックを受けている様子だった。
「仕込んだ何かをやっているのかと思った」と、スタッフが同僚に語っていた。
壇上に残されたロックさんは、目に見えて動揺していた。しかし、アカデミー賞の歴史を刻んだと気づいたのか、「今のはテレビ史上最高の夜だったね」と軽く受け流した。
オスカー(アカデミー賞)の授賞式が、その結果よりも式典中の出来事で記憶されることはよくある(たとえばエレン・デジェネレスさんと出席者のセルフィーや、2017年に作品賞が間違って発表されたことなど)。同様に、今回のアカデミー賞は「ウィル・スミスがクリス・ロックをたたいたオスカー」としていつまでも記録されるはずだ。
2022-03-28 05:31:21Z
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