米航空宇宙局(NASA)のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が初めて撮影した太陽系外惑星の写真が、2022年8月末に公開された。この画像には、約400光年離れた恒星の周りを公転する木星の7倍も重い惑星が、明るい光のもやとして写っている。
この画期的な成果は、JWSTの太陽系外惑星の初期の調査における一連の発見のひとつであり、未来の宇宙望遠鏡で地球のような惑星を直接撮影するための技術を検証するものだ。
「本当にわくわくします」と、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の天文学者で、この画像を処理したチームの一員であるアーリン・カーターは語る。「この結果は本当に素晴らしいものです」
数十年がかりで完成したJWSTが打ち上げられたのは、2021年12月のことだった。現在は地球から100万マイル(約160万km)離れた宇宙空間に浮かんでおり、22年夏から本格的に稼働を開始した。
そこから宇宙の始まりを示す遠方の銀河を観測したり、木星の壮大な眺めを撮影したりと、早くも成果を上げている。JWSTは太陽系外惑星の観測で予想の10倍以上の性能を発揮していると、天文学者たちは言う。
今回の新しい画像は、8月31日にオンラインに掲載された論文で詳しく説明されている。論文は英国のエクセター大学の天体物理学者であるサーシャ・ヒンクリー率いるチームが提出した。
この調査で研究者たちは、高速回転する惑星「HIP 65426」が存在すると知られている方角にJWSTを向けた。チリの超大型望遠鏡(VLT)の分光偏光高コントラスト太陽系外惑星探査の観測装置(Spectro-Polarimetric High-contrast Exo-planet REsearch、SPHERE)が、初めてこの惑星を撮影したのは2017年のことである。そしてヒンクリーのチームは「HIP 65426 b」と呼ばれる惑星の撮影に挑むことで、JWSTの能力と特性を試したのである。
天文学者たちは、これまで二十数個の太陽系外惑星の画像を撮影してきた。しかし、幅6.5mの六角形の鏡を使うJWSTは、地上にある観測装置の性能を凌駕し、研究者の撮影能力を高められる。「発展が約束された瞬間です」と、カリフォルニア大学天文台(UCO)の次期ディレクターである天体物理学者のブルース・マッキントッシュは語る。
若く巨大な灼熱の星
HIP 65426 bを撮影するためにJWSTは、コロナグラフと呼ばれる小さな覆いで恒星の光をさえぎった。すると、本来は何千倍も暗い惑星が、まるで「サーチライトの周囲に飛ぶホタル」のように浮かび上がったのである。
HIP 65426 bとこの惑星が公転する恒星からの距離は、地球と太陽の距離の100倍ほどあり、1周するには630年もかかる。この距離のおかげで、恒星のまぶしい光を受けても惑星が見やすいのだ。
また、この惑星は非常に高温で明るい。1,400万年前の惑星形成時の熱のなごりで惑星の温度は約900℃もあり、直接撮影する格好の目標となっていた。「この惑星の温度は、ろうそくの炎の温度に近いのです」と、エジンバラ大学の天文学者で、チームのもうひとりのリーダーであるベス・ビラーは説明する。
JWSTの規模と感度のおかげで、ほかのどの観測所よりも惑星の光を多く捉えることができた(SPHEREの画像より粗く見えるのは、JWSTが波長の長い赤外線を観測しているからだ)。
これにより、ヒンクリーとビラーのチームは惑星の質量を正確に見積もれる。SPHEREの調査では、惑星の質量は木星の質量の約10倍と見積もられていた。しかし、それより少ない約7倍だろうとチームは推定している。また今回の成果は、惑星の半径が木星の1.4倍であると特定する助けにもなった。
単純な惑星進化モデルでは、この惑星の特徴を説明することは難しい。正確なデータが手に入ることで科学者たちはそれぞれのモデルを検証し、「理解を深めることができます」とチームメンバーのカーターは語る。
画像からはHIP 65426 bの表面の特徴は見てとれないが、木星のように温度と組成の違いによって「おそらく帯状に見える」。また、嵐や雲の渦によって大気に斑点があるかもしれないと、ビラーは説明する。
この巨大惑星は、人類が知っているような生命体の生存には不向きだが、科学者たちはこの種の巨大惑星について詳しく知りたがっている。木星はおそらく太陽系を形成する上で重要な役割を果たし、地球上に生命が定着することにも影響を与えた可能性がある。「ほかの惑星系でも同じように機能するかどうか、わかるといいですね」と、マッキントッシュは語る。
JWSTが予想以上に安定的に機能していることから、当初の想定よりも小さな太陽系外惑星も撮影できるだろうと、科学者たちは話している。木星の質量の3分の1ほどの惑星まで撮影できるかもしれないという。「海王星や天王星のように、これまで直接撮影したことがないような惑星も撮影できます」と、JWSTを運用するメリーランド州の宇宙望遠鏡科学研究所の天文学者であるエミリー・リックマンは言う。
JWSTがコロナグラフによる実施試験を通過したので、これを使って惑星を撮影しようと天文学者たちが列をつくるだろうと、ヒンクリーは語る。望遠鏡の寿命が尽きるまでに「数十枚は確実に」写真を撮ることができると、ヒンクリーは予想している。「数百枚に近い数になることを期待しています」
遠くの空に目を向ける
太陽系外惑星の写真以外に、ヒンクリーのチームは伴星を周回する褐色矮星(「恒星になり損ねた星」と呼ばれることもある)の大気中に、さまざまな分子の配列を発見したことを近日中に発表する予定だ。
この天体は木星の約20倍も重いが、核で核融合が起きる閾値をわずかに下回る質量しかない。JWSTに搭載された光を波長に分割して成分を分析する分光器で調べたところ、水、メタン、二酸化炭素、ナトリウムなどの物質を、これまでにない詳細さで特定できたのである。
また、褐色矮星と思われる天体の大気には、シリカの煙のような雲も検出された。これまでもその存在は示されていたが、正確には特定できていなかったのだ。「わたしの考えでは、これは亜星天体の伴星から得られた最も重要な分光の結果です」と、ヒンクリーは説明する。「このようなものは見たことがありません」
この発見は、2週間前に別の天文学者のチームがJWSTを使って地球から650光年離れた巨大な太陽系外惑星「WASP-39 b」で二酸化炭素を検出したことを発表し、注目された論文に続くものである。このとき初めて太陽系外惑星で二酸化炭素が発見されたのだ。
その惑星の大気では、謎の分子の存在も検出されている。このチームはほかに2つの巨大惑星を調査しており、今後数カ月内にこうした巨大ガス惑星の大気の組成の大部分を明らかにする結果が出ることが期待されている。「これがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の力です」と、シカゴ大学の天文学者でこのチームの共同リーダーを務めるジェイコブ・ビーンは語る。
JWSTでの観測により、地球に近い岩石質の小さな天体の大気でJWSTが検出する可能性が高い物質をまとめた「化学物質の目録」が充実するようになると、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の天体物理学者でチームリーダーを務めるナタリー・バタラは語る。バタラのチームは今後実施予定の巨大ガス惑星の観測により、「JWSTの限界に挑戦」するという。それにより、「地球型惑星の観測で何ができるか」がわかるようになると、バタラは説明する。
比較的近くにあり、地球サイズの7つの岩石質の惑星が周回している赤色矮星「TRAPPIST-1」を、JWSTで観測しているチームもある。これらの惑星のいくつかは、星の生命居住可能領域に位置し、液体の水、さらには生命が存在する可能性のある条件が揃っている。
JWSTでこの惑星を直接撮影することはできないが、分光器によって惑星の大気中のガスを特定できる。生命活動を示すガスも観測できるかもしれない。「地球と同じガスがないか本気で探しています」と、カリフォルニア大学天文台のマッキントッシュは語る。
(WIRED US/Quanta Magazine/Translation by Nozomi Okuma)
※Simons Foundationが発行する「Quanta Magazine」から転載。数学や物理、生命科学分野の研究開発および動向を取り上げ、一般の人々の科学に対する理解を高めることを使命としている。
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2022-10-06 08:01:04Z
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