すばる望遠鏡などによる観測で、宇宙で最初に生まれた星々の中に太陽140個分以上の質量を持つ巨大な星が存在していた証拠が得られた。ビッグバン後の初期宇宙における星の誕生を理解する上で重要な成果だ。
【2023年6月8日 すばる望遠鏡】
宇宙で最初の星々である「初代星」の中には、現在はほとんど存在しないような大質量星が多く含まれていた可能性が理論的に示されている。その中でも、質量が太陽の140倍を超えるほどの星が存在したかどうかは注目に値する。これほどの大質量星は紫外線放射によって周囲の環境を大きく変えるとともに、生涯の最期に「電子対生成型」と呼ばれるエネルギーの大きな超新星爆発を起こし、次世代の星にも影響を与えるからだ。
巨大質量の初代星が起こした超新星爆発の想像図。星団のなかで最も質量の大きな星が最初に爆発し、周囲に物質を放出すると考えられる（提供：中国国家天文台）
電子対生成型超新星を起こすほど質量が大きな初代星が存在したかどうかを探る上では、初代星とほとんど同じころに誕生し、現在も輝いている高齢な恒星が鍵を握る。こうした星には水素とヘリウム以外の重元素（天文学ではまとめて「金属」と呼ばれる）がほとんど含まれないため「低金属星」と呼ばれ、天の川銀河の中にも存在する。低金属星の材料には、その直前に生涯を終えた初代星の残骸も使われている場合もあるはずなので、電子対生成型超新星を起こした大質量星が存在したのであれば、その痕跡が見られるはずだ。
中国国家天文台のXing Qianfanさんたちの研究チームは、中国の多天体分光専用望遠鏡「LAMOST（Large Sky Area Multi-Object Fiber Spectroscopic Telescope）」による観測で天の川銀河内の低金属星を多数見つけ出して、米・ハワイのすばる望遠鏡で元素組成を詳細に測定してきた。
そのような低金属星の一つ、「LAMOST J101051.9+235850.2」（以下 J1010+2358）の元素組成が、電子対生成型超新星が作りだす特徴的なものであることがわかった。これまでで最も明確な電子対生成型超新星の痕跡といえるもので、初期宇宙で太陽の140倍以上の質量をもつ巨大質量星が形成されたとする理論を強く支持する結果だ。
LAMOST J101051.9+235850.2の可視光線画像。しし座の方向、約3000光年の距離にあり、太陽よりやや軽い主系列星で、見かけの明るさは約16等級（提供：SDSS/国立天文台）
「原子番号の奇数番（ナトリウムなど）と偶数番（マグネシウムやカルシウムなど）の元素の組成比に大きな差があるのは、電子対生成型超新星の特徴で、理論の予測によく一致する結果です」（Xingさん）。
「LAMOSTで見つけた星をすばる望遠鏡で詳しく調べるという研究を中国の研究グループと10年近く続けてきました。初代星に特有と考えられる巨大質量星の爆発の痕跡を探すことは大きな目標の一つでしたが、今回、それを達成することができたと言えます」（国立天文台 青木和光さん）。
J1010+2358の元素組成比（赤丸）と超新星爆発の理論モデルの比較。（上）太陽の10倍の質量の星が起こす重力崩壊型超新星のモデルでは、測定で得られた元素組成と全く合わない。（中）85太陽質量という大質量星が起こすこす重力崩壊型超新星の場合。部分的には合うが、ナトリウム（Na）やマグネシウム（Mg）のほか、マンガン（Mn）やコバルト（Co）の組成が合っていない。（下）260太陽質量の星が起こす電子対生成型超新星のモデルでは、J1010+2358の観測結果を最もよく説明できることがわかる（提供：中国国家天文台）
次に解き明かすべき大きな課題は、初代星のうち巨大質量星の割合がどのくらいだったのかという疑問だ。その解明にはさらに多数の第2世代の星を探査し、その元素組成を測定する研究を進める必要がある。研究チームは今後も観測例を増やし、初代星の謎を解き明かしていくことを計画している。
青木さんによる今回の研究成果「宇宙初代の巨大質量星の明確な痕跡を発見」の紹介動画（提供：すばる望遠鏡）
2023-06-08 12:11:46Z
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