岸田文雄首相が、最低賃金を2030年代半ばまでに1500円に引き上げる目標を掲げた。随分前から労働組合や野党が掲げてきた数字で、なぜ今になって政府がぴったり同じものを打ち出したのか。物価高の折、賃上げは歓迎したいものの、本当に暮らしは楽になるのか。(岸本拓也)
◆10年代から労組や野党が主張
「エネルギーや食料品価格が高騰する中で、経済成長を実現していくためには、賃上げが当たり前となる経済、そして投資促進が鍵となる」
8月31日、首相官邸で開かれた「新しい資本主義実現会議」。岸田首相は、最低賃金の全国平均時給を30年代半ばまでに1500円とする目標を表明した。23年度は1004円となる見通しで、その1.5倍もの引き上げを目指す方針だ。
この「1500円」、10年代から労組や野党が主張している。14年、労働組合「首都圏青年ユニオン」などが「人間らしい生活のためには最低時給1500円が必要」と主張。立憲民主党や共産党、社民党、れいわ新選組は22年夏の参院選などで公約に掲げ、争点にしてきた。
こうした中、同じ数字をぶつけた背景にちらつくのが選挙。政治ジャーナリストの伊藤惇夫氏は「自民党の伝統的な抱きつき作戦だ。野党の主張をつぶすという意味合いが含まれているのだろう」と推察する。ただ、「岸田さんは世論を気にして政策をころころ変えるタイプ。『所得倍増』が尻すぼみになったように、最低賃金1500円もスローガンで終わってしまわないか」とも。
◆実は「現実的な目標」なのだとか
もともと最低賃金は、中小企業の支払い能力などを基準に決められていた。1990年代以降、家計を支える非正規労働者が大幅に増えたことで、引き上げの必要性が高まった。特にこの10年は、「官製春闘」に代表される政治による賃上げ圧力が顕著に。2013年度に764円だった全国平均は22年度は961円となり、23年度には初めて1000円を上回った。
とはいえ、現在の1.5倍という目標はかなり高いように見える。本当に実現できるのか、第一生命経済研究所の藤代宏一主席エコノミストに尋ねると、「すごいと思うかもしれないが、実はそれほど野心的な目標ではない」という答えが返ってきた。
問題は、目標達成までに設定した期間だ。30年代半ばというと十数年後。「それまで年間3%程度引き上げれば1500円は達成できる。実際の引き上げ率は16年度以降ほぼ毎年3%を超えていることを踏まえると、1500円は現実的な目標」と藤代氏。政府が意欲を示すなら「『30年代前半まで』とか、目標時期を早めても良かった」と指摘する。
実際、先の実現会議の委員で経済同友会の新浪剛史代表幹事も「5年後には1500円を目指すといった高い目標を打ち出すべきだ」と主張。かつて最低賃金引き上げに消極的だった経済界の中からでさえ、さらなる前倒しを求める声が出ているのだ。
◆賃上げ、日本だけが取り残されている実態
経済ジャーナリストの荻原博子氏は「賃金以上に物価が上がって、実質賃金は16カ月連続で下がっている。世界ではもっと賃金が上がっているのに、日本だけが取り残されている。今の物価高を考えると、すぐにでも最低賃金をもっと引き上げていかないと、多くの国民の暮らしは苦しいままだ。漠然と30年代半ばと言われても、どこまで本気なのか疑いたくなる」と疑問を呈す。
「政府として目標を掲げるなら、都合のよい数字を言いっ放しで終わるのではなく、3年後、5年後、どういうふうに最低賃金の引き上げを実現していくのか、ロードマップ(行程表)などを具体的に示して、責任を持って進めていく必要がある」
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