「リース会計基準」が変わる──。そんなニュースに、ドキッとした財務経理部門の担当者も多いのでは。
財務経理部門の担当者は近年、インボイスや電子帳簿保存法などの法・制度変化に伴う対応にてんてこ舞いだったはずです。対応準備も完了してようやく一息……とはいかず、新リース会計基準は早ければ2026年にも適用されると考えられます。
今回の新基準では、いつ・何が・どのように変わるのでしょうか。公認会計士の白井敬祐が解説します。
<Q1>「改正リース会計基準」とは どんな法改正なのか?
「改正リース会計基準」とは、23年5月2日に日本における会計基準の設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)が新たに公表した、リース会計基準の公開草案のことです。
リース会計基準とは
そもそもリース会計基準とは、特定の物件を所有する貸手に特定期間にわたって当該物件の使用する権利を借手に与え、その使用料(リース料)を借手が支払う取引、いわゆるリース取引についてのあるべき会計処理を定めたルールのことをいいます。
リース会計基準 改正の経緯
国内における従来のリース会計基準は、国際的な会計基準(国際財務報告基準、IFRS=読み:イファース)を参考にして設定され、08年4月1日以後に開始する事業年度から国内で適用されてきました。
しかし、英国のロンドンに拠点を持つIFRSの設定主体である国際会計基準審議会(IASB)は、16年1月にIFRS第16号リース(以下、IFRS16)を公表し、19年1月1日以後に開始する事業年度からIFRS16が国際的に新たに適用開始されました。
この国際的なリース会計基準の改正の流れを受けて、国際的な会計基準との整合性を図るために、日本でも18年6月から本格的にリース会計基準の改訂に向けた検討が開始されました。
そしてついに23年5月2日、企業会計基準委員会(ASBJ)が、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下、リース会計基準案)及び企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下、リース会計適用指針案)を公表しました。
<Q2>改正リース会計基準で、主にどのような変更点がある?
今回のリース改正のポイントは、借手の会計処理が大きく変更されたことです。結論から言えば、全てのリース取引について借手は、貸借対照表上に資産と負債を計上する必要が生まれます。
従来のリース取引については、一定の条件を満たすと借りている物件を資産計上し、同額を負債に計上するという会計処理(ファイナンス・リース)がされます。しかし一部のリース取引については、物件を借りていても資産と負債を計上せずに、支払ったリース料の金額をそのまま費用とするだけの処理(オペレーティング・リース)が認められていました。
このファイナンス・リースの会計処理については、リースの形式で資産を使用する場合と、借金して資産を購入して使用する場合の経済的実態は同じであると考え、資産と負債の両方を貸借対照表に計上することを求めています(オンバランス)。一方で両者の経済的実態が同じでないと判断されれば、単に賃借料だけ払っていると考えるオペレーティング・リースとして処理され、資産と負債は計上されないことになります(オフバランス)。
このように従来は経済的実態を判断して、借金して資産を購入して使用している場合と同じと判断されれば、ファイナンス・リースとして分類されて会計処理し、そうでなければオペレーティング・リースとして分類して会計処理されています。
しかし、経済的実態に応じて判断といいつつも、その判断は難しいものです。実務上は、「現在価値基準(90%基準)<※1>」または「経済的耐用年数基準(75%基準)<※2>」といった数値基準に基づき判定していました。
そのため、同じような契約内容の2つのリース取引であったとしても、数値基準で形式的に判定することによって、一方はファイナンス・リース、他方はオペレーティング・リース──というように、経済的実態は2つとも同じでも異なる会計処理になってしまう問題点があります。また、意図的にリース契約内容を調整することで、数値基準を満たさないようにしてオペレーティング・リースにすることで資産と負債を計上しないことが可能であり、いわば“抜け穴”が生じてしまっていました。
リース会計基準に関する法改正は、こうした問題点を解決することを目的に実施され、従来のファイナンス・リースやオペレーティング・リースなどの分類はなくなります。全てのリース取引が、資金調達によって資産を使用する権利(使用権資産)を購入したと考える単一モデル(使用権モデル)に統一され、リース開始日に「使用権資産 xxx / リース負債 xxx」のように資産と負債を両建て計上することになります。
<※1>:リース料総額の現在価値が資産の現金購入金額の90%以上であるかという数値基準
<※2>:リース期間が資産の経済的耐用年数の75%以上であるかという数値基準
<Q3>オンバランスの対象は、どこまで広がりますか?
従来ファイナンス・リースとして処理していたリース取引は、当然ながら引き続きオンバランスされます。改正後はこれに加え、オペレーティング・リースとして従来オフバランスされていたリース取引もオンバランスの対象になります。
そのうち、多くの企業に該当するのがオフィスなどの不動産についてでしょう。オフィスなどの不動産もオンバランスされることになるほか、該当する可能性があるのは社用車や複合機、社員寮などです。
法改正の施行前に、社内で現状何がオペレーティング・リースとして処理されているのかを洗い出す必要があります。なお、公開草案では短期リース<※3>と少額リース<※4>に関しては簡便的な取り扱いが認められ、オフバランス処理することが可能とされています。
<※3>短期リース:リース開始日において借手のリース期間が12ヶ月以内であるリース
<※4>少額リース:(1)重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース または(2)以下のいずれかを満たすリース 1:リース契約1件当たりの借手のリース料が300万円以下のリース/2:原資産の価値が新品時におよそ5千米ドル以下のリース
<Q4>従来はリースだとされていなかったものについても、適用されますか?
その可能性はありますが、全ての企業に該当するわけではなく、業種によって異なると考えられます。
従来は、リース取引の定義<※5>に該当する取引であれば、リース会計基準や適用指針に従うこととされていました。しかし、具体的なリースに該当するかどうかの判断に関するガイダンスがなかったため、当該判断が企業によって異なっていたり、単に法的形式のみで判断するケースも存在していました。
新基準では契約にリースが含まれるか否かに関する具体的なガイダンスが明示されており、契約の実態に照らして契約の中にリースが含まれているかどうかを判断することになったため、従来は法的形式からリースとして扱われていなかった取引も契約の実態で判断すればリースとして取り扱われる可能性があります。
新基準での契約にリースが含まれるか否かに関する具体的なガイダンスでは、主に「使用する対象の資産が特定されているか」と「資産の使用を支配する権利を有するか」の両方の要件を満たすかどうかを判定することになります。
例えば、部品の製造業者が特定の顧客だけに部品を供給するために、専用の金型を製造して部品を供給する場合、当該部品の供給契約は法的形式上リースではないが、前述の2つの要件を満たすと判断されると当該契約にはリースが含まれるものとして当該金型が借手(特定の顧客)にオンバランスされる可能性があります。
<※5>「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(リース期間)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料(リース料)を貸手に支払う取引をいう。
<Q5>特にどのような業務に影響が出てくるでしょうか?
特に経理部での決算業務、IRにおける投資家への説明や管理会計部での業績評価などの業務に大きな影響が出てきます。
経理部においては、従来オペレーティング・リースとして処理していたものは請求書がくるたびに費用処理するだけで良かったと思われますが、新基準になるとそれらもオンバランスの対象となりますので、リース資産それぞれの毎月のリース料、リース期間などを管理し、割引計算を実施して、資産と負債をオンバランスする仕訳を起票する必要があります。
また、後述する財務指標にも影響してきますので、IRにおける投資家への説明や管理会計部における業績評価の業務にも影響を及ぼすことになります。
<Q6>法改正に備えて、どのような準備が必要ですか?
経理部において特に従来オペレーティング・リースとして処理していたものをオンバランスするための仕組みづくりが必要になります。そのための準備として、以下のようなことが考えられます。
(1)リースの会計方針や開示方針の決定
- 対象資産、リース期間や割引率などの方針決め
- 他社事例の調査や開示のひな型を作成するなど
(2)システムを導入するか否かの決定
- Excelでオンバランスするか、オンバランスするためのシステムを導入かを決める
(3)子会社、関係部署や役員への相談、説明
- 会計方針、開示方針を関係者たちに問題ないか相談、説明する
- 財務的な影響を役員やIRや管理会計部などの関係部署に説明する
(4)既存のシステムなどの改修
- 会計システム上の勘定科目の追加
- 連結パッケージの追加または改修
適宜、準備を進めていくことが望ましいでしょう。
<Q7>いつ施行・適用されますか?
現状、可能性として高いのは「2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用開始」と考えられます。
公開草案では、「公表から2年程度経過した日を想定している」と記載されているため、24年3月31日までに確定した基準が公表されれば、前述の時期から適用開始となります。なお、早期適用も認められる予定です。
<Q8>リース期間はどのように決めるのでしょうか?
解約不能期間に加えて、延長オプションや解約オプションを考慮することになります。
つまり、延長オプションの行使が合理的に確実である場合は解約不能期間に当該期間を加え、解約オプションの行使可能期間中に当該オプションを行使しないことが合理的に確実である場合には解約オプションの行使可能期間もリース期間に含めることになります。
ここでのポイントは、延長オプションの行使や解約オプションを行使しないことが「合理的に確実かどうか」を判断することです。このため、同様の資産の解約の過去実績や将来の事業計画などを参考することによって合理的に確実かどうかを判断していくことになります。
<Q9>財務指標にどのような影響があるのでしょうか?
従来オペレーティング・リースとして賃借料などの販管費で処理していたものが、資産・負債を両建て処理する(資金調達して使用権資産を買った)ことになります。このため、使用権資産からは減価償却費、負債からは利息費用が発生することになります。よって、主に以下のような影響が考えられます。
B/Sへの影響(総資産:増加、負債:増加)
オンバランスの影響によって、総資産と負債の金額が増加することになります。
P/Lへの影響(当期純利益:減少、営業利益:増加)
従来の賃借料と新基準によって発生する減価償却費+利息費用を比べると、リース期間全体では同じです。
しかし新基準では、利息法により利息費用を算定するため、リース期間前半は従来よりも費用発生額は大きくなり、リース期間後半は費用発生額は小さくなります。
よって、適用当初の当期純利益にはマイナスの影響を与えますが、従来の賃借料と新基準による減価償却費を比べると賃借料の方が大きいため、営業利益にはプラスの影響を与えます。
C/Fへの影響(営業CF:増加、財務CF:減少)
上述のように営業利益は上昇し、賃借料の金額が非資金取引項目である減価償却費の金額に置き換わるため、営業活動によるキャッシュ・フローにはプラスの影響を与えることになります。
また、リース負債の元本返済額は財務活動によるキャッシュ・フローの区分に計上されるため、マイナスの影響を与えることになります。
経営指標(ROA :低下、総資本回転率:低下、自己資本比率:低下、ROE:一定、EBITDA:増加)への影響
総資産が増加するため総資産利益率(ROA)、総資本回転率、自己資本比率は低下します。
また、自己資本利益率は分母である自己資本と分子である当期純利益に与える影響は同じであることから一定となります。さらに、賃借料が減価償却費に置き換わることから、EBITDAは増加することになります。
著者プロフィール
白井敬祐
公認会計士。2011に年公認会計士試験合格後、清和監査法人で監査業務に従事した後、新日本有限責任監査法人及び有限責任監査法人トーマツで IFRSアドバイザリー業務や研修講師業務に従事。その後、株式会社リクルートホール ディングスで経理部に所属し、主に連結決算業務、開示資料作成業務や初年度のIFRS 有価証券報告書作成リーダーを担当。そして、2021年7月に独立開業し、現在はCPA会計学院にて会計士講座や、IFRS動画や簿記1級講座を無料で提供する「CPAラーニング」の講師を務め、近畿大学経営学部の非常勤講師として学生向けに会計士講座を開講。会計を楽しく学べる『公認会計士 YouTuber くろいちゃんねる』を運営。著書「経理になった君たちへ」「伝わる経理のコミュニケーション術」(税務研究会出版局)。
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