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Thursday, November 23, 2023

「アーバン・ベア」だけじゃない!「ボア」が千葉の繁華街近くに ... - 東京新聞

 今年、全国でクマによる人身被害が過去最悪ペースで発生し、大きなニュースになっている。だが、人に害を及ぼす動物はクマだけではない。イノシシによる人身被害も各地で起きている。農作物への被害に着目すればクマより深刻だ。町に現れるクマ「アーバン・ベア」ならぬ「アーバン・ボア(英語でイノシシ)」も。背景に何があるのか。そして、なすべき対策は。(山田祐一郎、宮畑譲)

10月25日未明にイノシシが目撃された千葉駅西口ロータリー

10月25日未明にイノシシが目撃された千葉駅西口ロータリー

◆千葉駅近くで目撃「こんな場所に…」

 「家の中では全然気付かなくて、後で自宅の近くを通っていたのを知った。こんな都会に出るなんて」。22日午後、バスや乗用車が行き交う千葉市中央区の千葉駅西口ロータリーで、近くに住む70代の女性が驚きを交えて振り返った。

 駅付近ではマンションの建設が進み、県庁や市役所もある文字どおり政令市の中心部にイノシシが出たのは、10月25日未明だった。

 千葉県警千葉中央署によると、イノシシ目撃による通報は午前0時15分ごろから午前1時10分に十数件相次いだ。最初の通報地点は中央区中央2で、千葉都市モノレールの「葭川(よしかわ)公園駅」や繁華街「富士見本通り」からも近い。その後、通報地点は西へと移動。同0時半ごろには同区新宿2の市立新宿小学校近くであり、同区登戸2の国道14号付近でタクシーと衝突。駆け付けた警察官が千葉駅西口ロータリーで目撃した。

 夜が明けると、千葉港付近の海を泳いでいるのが見つかり、同9時ごろ、警察官が陸上でイノシシを取り押さえ、猟友会に引き渡した。捕獲されたのは体長104センチの雌。通行人の男性1人と警察官2人がかまれて軽傷を負った。市によると、同市緑区内の山林で処分された。

◆2017年度に12頭、2022年度には145頭

 同市内では近年、イノシシの目撃や捕獲件数が急増。2017年度に12頭だった捕獲件数は、昨年度145頭まで増えた。「これまで目撃情報は近隣市と接する緑区や若葉区に集中しており、中央区というのは例がない」と話すのは市環境保全課の木下英明課長。今回のイノシシがどこから来たのかは「不明」という。

 多くの地元住民にとっては予想外の出来事だったようだ。千葉駅前にいた派遣社員の女性(54)は22日、「こちら特報部」の取材で初めて、イノシシの出没を知ったという。「本当ですか。イノシシなんて人ごとだと思っていた」と、いまだ半信半疑だった。

 実際には今年、市街地でのイノシシ被害が全国で続発している。

 広島県福山市では、9月28日と11月1、8日に市街地や工業団地でイノシシの出没が相次いだ。いずれも住民らがかまれてけがをする被害が出ており、市が注意を呼びかけている。

 20年度まではイノシシの目撃情報がほとんどなかったという福山市。21年度は4件確認され、昨年度は1件、本年度は既に3件に上る。「9月はJR福山駅近くの繁華街。11月は小学校の近くや工場の敷地内で市民と遭遇した。パニックになったのか、3頭とも車にはねられた形跡があった」と同市農林水産課の渡辺光広担当課長が話す。

◆東京・多摩地区の市街地にも出没

 首都・東京も例外ではない。都内では多摩地区の丘陵地を中心にイノシシが生息しているとみられるが、近年は国分寺市や国立市、立川市など市街地で出没が確認されている。

 23区内での目撃例は少ないものの、19年12月には足立区の荒川河川敷で相次いでイノシシが目撃された。

 イノシシによる被害増加を受け、環境省が全国の人身被害の統計を取り始めたのは2016年度。同年度から2年間、都道府県別の件数で唯一、2桁(14件、15件)を記録し、トップだったのが兵庫県だ。

◆兵庫県は餌づけに罰則

 中でも神戸市の六甲山麓で被害が多発していた。麓近くまで民家が立っていることに加え、餌づけが問題になっていた。神戸市は02年、市内の一部地域でイノシシへの餌づけを禁止する全国初の条例を制定していた。それでも餌づけや被害がなくならず、14年には罰則を強化し、指導、勧告に従わない場合は氏名を公表するようにした。

 条例の効果もあってか、18年度以降は市内の人身被害は1桁で推移している。市の担当者は「餌づけをしないことに加え、イノシシが食べないようにごみを出す日時など住民にマナーを守ってもらうよう徹底したことも大きい」と話す。

名古屋市の市街地にある公園では昨年11月、イノシシが出没して立ち入り禁止となった

名古屋市の市街地にある公園では昨年11月、イノシシが出没して立ち入り禁止となった

 しかし、全国的な被害は減っていない。環境省によると、イノシシによる人身被害は昨年度、81人に上り、統計を取り始めてから最多となった。亡くなった人も1人いた。本年度も既に21人が被害に遭っている。

◆推定頭数は減っているのに…

 農作物の被害も少なくない。農林水産省によると、21年度の野生鳥獣による被害は約155億円。うちイノシシによる被害は約39億円で、シカに次いで2番目に多かった。

 一方で、捕獲増もあり推定頭数は一時期より減っている。環境省によると、昨年度の捕獲頭数は速報値で約59万頭。14年度以降は50万頭以上捕獲している。推定頭数の中央値は10年度の145万頭から、21年度は72万頭まで減っている。

 頭数が減っているのに、なぜ被害は増えるのか。

◆人を怖がらなくなると行動がエスカレート

 兵庫県森林動物研究センター業務部の広瀬泰徳副部長は農作物の被害が減らない理由を「イノシシは実を食べる傾向があり、被害の単価が高い。1頭いると被害が大きくなる」と言う。

 人に危害を加えるのは市街地に出てくる個体だ。広瀬氏によれば、イノシシは警戒心が強いが、一方で学習能力も高いため、「人は怖くない」と認識すると、市街地に出没を繰り返したり、餌づけをできたりするのだという。「一度覚えると行動がエスカレートする。餌づけやごみ出しに気を付けるのはもちろん、農作物を食べられないようにしないと、地域で飼っていることになってしまう」

◆ヨーロッパでは10年ほど前から問題に

 生息域の広がりが被害拡大につながっていると主張するのは、宇都宮大の小寺祐二准教授(野生動物管理学)だ。「欧州では既に10年ほど前からアーバン・ボアが問題となっている。日本でも今のうちに対策をしなければ、大変なことになる」と警鐘を鳴らす。

イノシシは泳いで移動もできる=三重県鳥羽市の鳥羽湾で(大峯幸喜さん撮影)

イノシシは泳いで移動もできる=三重県鳥羽市の鳥羽湾で(大峯幸喜さん撮影)

 クマの出没が増えているのと同じで、里山が荒廃し、イノシシがすみやすい森林域が住宅街の近くまで広がったことが背景にある。さらに、小寺氏は「イノシシは泳げ、どんな川でも渡れると考えていい。首都圏の出没場所の近くには山などの緑がある。緑地や河原をつたって移動している」とみる。その上で「これまで確認された場所を考えれば、横浜市の中心部や東京23区内にいつ現れても不思議ではない」と指摘する。

 里山を整備して近寄らないようにするにしても、そうした地域は人口減、高齢化の問題を抱える。全国的に里山の管理を続けるのは現実的ではないとして、小寺氏はこう提言する。

◆都市部への移動経路を分断しないと…

 「餌づけは論外だが、農地近くは草を刈り、柵を設けることで近づけないようにする。都市部に入り込ませないようにするためには、移動経路を分断するため、ポイントを絞って樹木を伐採するなどの対策をとるべきだ」

◆デスクメモ

 「かわいそう」「殺すな」と、クマを捕獲した自治体に殺到する苦情・要望の電話が社会問題化している。イノシシを捕獲後、千葉市への電話は2件だった。クマと比べて少ないのは「かわいらしさ」のイメージの違いだろう。野生動物に対する現代人の勝手な距離感が浮かんでくる。(北)

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