「ミッシング」石原さとみ・絶望の物語が示すものは何か／「碁盤斬り」傑作時代劇の誕生 シネマプレビュー 新作映画評 - 産経ニュース

「ミッシング」石原さとみ・絶望の物語が示すものは何か／「碁盤斬り」傑作時代劇の誕生 シネマプレビュー 新作映画評 - 産経ニュース

公開中の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。

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「ミッシング」

映画「ミッシング」©２０２４「ｍｉｓｓｉｎｇ」Ｆｉｌｍ　Ｐａｒｔｎｅｒｓ

俳優として飛躍を望んだ石原さとみが、吉田恵輔監督作品への出演を直談判。一度は断られたが、３年後に送られてきたのが、この作品の脚本だった。

幼い娘が行方不明になる。事故か事件か。真相は不明のまま時間が過ぎ、勝手な報道やＳＮＳの悪意ある言葉に傷つき、心を失い（ミッシング）かける母親を石原が演じている。

ボディーソープで洗髪して髪を傷めたり、ジャンクフードを食べ続けたりし、華々しさをかなぐり捨てた石原。わが子を見つけるために懸命の形相の母親役に誠実に、全身全霊で取り組んだことが伝わってくる。

脚本も手がけた吉田監督は、娘の失踪（ミッシング）だけではなく、さまざまなものが欠けた（ミッシング）社会の醜悪さもあぶり出す。

実は、この希望のない物語から何をくみ取るべきか、ラストの石原のしぐさを見て、なお、明確な答えを見つけられずにいる。彼女は悲劇と折り合いをつけようとしているのか。あらがい続けるのか。あるいは、この映画には簡単な答えなどないのか。青木崇高、中村倫也らが共演。

１７日から全国公開。１時間５９分。（健）

「ありふれた教室」

映画「ありふれた教室」© if… Productions/ZDF/arte MMXXII

ささいな出来事がきっかけで、社会の縮図である学校が急速に崩壊していく過程を描いた人間ドラマ。

盗難が多発する中学校。教師のカーラ（レオニー・ベネシュ）は、同僚らの生徒の人権を無視した調査に疑問を持つ。彼女は密かに動画を撮影するが、犯人の服の一部しか映っていない。彼女の告発によって疑われた人物は強硬に否定。教師や生徒らは、カーラのやり方に強く反発する。

正義感が強く直情径行なカーラが学校を混乱させ、孤立無援となる。イルケル・チャタク監督は、その姿を悪夢のような息苦しさの中に描き出す。真実とは？　目的は手段を正当化するのか？　重い問いかけを突き付ける作品だ。独映画。

１７日から全国公開。１時間３９分。（耕）

「碁盤斬り」

映画「碁盤斬り」ⓒ２０２４「碁盤斬り」製作委員会

これは白石和彌監督、時代劇の傑作をものにした。囲碁をめぐる落語「柳田格之進」に、あだ討ち話を追加した加藤正人の脚本もさえている。白石作品らしいハードボイルドさもそれとなくうかがわせ、そこに人情噺の温かさが折衷されているのが、とてもいい。西日が当たっているような、やや黄色みがかった映像も、それにふさわしい。

なんといっても主演の草彅剛がすばらしい。寡黙で笑わず、清廉潔白。体面のために腹を切ろうとする武士の愚直さを巧みに表現する。同時に武士ならではの殺気も放ち続ける。娘役の清原果耶も、素朴で清純なたたずまいがぴったり。これ、囲碁を知っているとさらに楽しめるのだろうか？

１７日から全国公開。２時間９分。（健）

「湖の女たち」

映画「湖の女たち」©２０２４　映画「湖の女たち」製作委員会

芥川賞作家、吉田修一の同名小説を「ＭＯＴＨＥＲ　マザー」などの大森立嗣監督が映画にした問題作。

琵琶湖近くの介護施設で起こった不審死を発端に、エロチックで、不快ですらある抑圧的な人間関係が絡み合う。

戦時中の、これも極めて不快な出来事にまで話はおよび、難解だ。劇中で投げかけられる「今、世界は美しいのだろうか」という言葉が、幾重もの、やはり不快な意味を有して重層的に描かれているのだと考えると、絡まった糸がほどきやすいだろうか。

福士蒼汰と松本まりかが主演。不道徳な関係を熱演し、きわめて象徴的だが、それゆえに本筋とは無関係な存在であり続けるのが、構造としてはおもしろい。

１７日から全国公開。２時間２１分。（健）

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2024-05-16 22:00:00Z
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