PS4の「FINAL FANTASY VII REMAKE」や、PC用レースゲームの「MotoGP 20」なんかを購入したものの、FFはティファとのイチャイチャっぷりが目に余るし、MotoGPの方は難易度が異常に高くMoto3クラスの最下位でくすぶっているしで、気力が湧かずになかなか進められない今日この頃。他にもクリアまでやり通せず、“積みゲー”になっていくものがどんどん増えていっている。このままではいかん! 何かゲームをしたくなる刺激がないと!
発作的にそう思い、次なる物欲のターゲットにしたのがサラウンドヘッドフォンだ。最初はPCにサラウンドスピーカーを組み合わせようと考えたのだが、PC内蔵のアナログサラウンド機能を使うスピーカーセットはどうやら絶滅の危機に瀕しており、将来性もなさそうだった。AVアンプとHDMIでパススルー接続する方法もあるけれど、コストが爆上がりになってしまうので、そこそこの投資で簡単にサラウンド化できるヘッドフォンに注目したわけだ。
世の中のゲーミング市場の盛り上がりに合わせて、サラウンド、特にバーチャルサラウンドに対応するゲーミングヘッドフォンが次々に登場してきている。仲間とボイスチャットしながらプレイすることもあるFPS系のゲームを意識して、マイクを標準装備したヘッドセットタイプも多い。最近ではテレワーク環境におけるビデオ会議用途で、あえてこうしたゲーミングヘッドセットを選ぶパターンも増えているようだ。
「バーチャルなんだから本当のサラウンドスピーカーのようには聞こえないでしょ」という筆者の思い込みもあり、これまで手を出してこなかったサラウンドヘッドフォン。本当にリアルっぽいサラウンドを体験できるのか、比較的新しい各社フラッグシップモデルのなかから、ASUS「ROG Theta 7.1」(実売3万円前後)とJBL「Quantum ONE」(同2万5,000円前後)の2機種をお借りして体験してみることにした。
結論から言えば、2機種ともメーカーに返却してしまった今、再びゲームをプレーする意欲がダダ下がりするくらいには“サラウンドヘッドフォンロス”を感じてしまっている。早くどちらかを買わないとティファとのイチャイチャの続きを楽しめないし、エアリスにも会えない。どうしてくれるんだ、まったく……。
“リアル”サラウンドに近いROG Theta 7.1と、機能盛りだくさんのQuantum ONE
そんなわけで、最初に今回の2機種の特徴を簡単に説明しておこう。まずASUSのROG Theta 7.1は、“バーチャル”なものが多いゲーミングヘッドセットのなかでも、珍しく“リアル”に近いハードウェアを備えたサラウンドヘッドセットだ。左右ハウジングそれぞれに、4個のドライバーユニット(スピーカーユニット)を内蔵。それらがフロント、センター、サイド、リアを担当し、これにバーチャルなサブウーファーを加えることで7.1chサラウンドを実現する「7.1chモード」が利用できるという。
ただ、1つのドライバーでサラウンドを再現するバーチャルサラウンド対応ヘッドフォンと同様に、耳に近接したハウジングの中に全てのドライバーユニットが収められていることに違いはないわけで、最終的に両耳に届く音声信号には計8つのドライバーユニットに最適化された形での信号処理が行なわれているものと考えられる。
実際、バーチャルサラウンドの機能も別に用意されており、Windowsでは7.1chモードとバーチャルを切り替え可能で、それ以外のプラットフォーム(PS4などのゲーム機)ではバーチャルのみとなる。7.1chモードがリアルサラウンドにどれだけ近いのかが気になるところだ。
一方のQuantum ONEは、JBLとしては初となるゲーミング向けブランドQuantumの最上位に位置付けられるバーチャルサラウンド対応ヘッドセット。独自の360度音響技術である「QuantumSPHERE 360」によって臨場感のある立体音響を実現するほか、「DTS Headphone X 2.0」にも対応するモデルだ。周囲のノイズを低減するアクティブノイズキャンセリング機能(ANC)や、チャット音声用のサウンドデバイスも用意してゲーム音声とミックスできるダイヤル型インターフェースも用意するなど、機能てんこ盛りの製品となっている。
こちらは1つのドライバーユニットを用いたバーチャルオンリーの製品となっており、QuantumSPHERE 360がどれほどの立体感、臨場感を出すのかがポイントとなるだろう。ANC機能がサラウンドサウンドにどんな影響を与えるのかもチェックしてみたい。
歪みの少ない“リアル”サラウンドを実現するROG Theta 7.1
では、ROG Theta 7.1の実力はどうなのか。開放型のような快適さがある分、感覚的には周囲のノイズが入りやすい。けれど7.1chモード時は、そんなウイークポイントをあっという間に忘れさせてくれるほどの正確な音像定位とサラウンド感を発揮する。初めに5.1chサラウンドの映像・音楽コンテンツを視聴したところでは、圧倒的な「音に囲まれている感」が得られ、バーチャルサラウンドで時々発生する「前面に出てくるべき音がなぜか控え目になる」ような、いわば“ごまかし”っぽいところがない。どの音もはっきり、キレよく鳴らす迷いのなさが好ましい。
立体感を再現するための過剰なリバーブエフェクトみたいなものも感じられない。どんなジャンルの映画や音楽も違和感が少ないサウンドで再生し、そういうバーチャルにありがちな細かなストレスが蓄積されていくこともないから聞き疲れしにくい。結果的に長時間の聞きやすさにもつながるから、ゲーマーにはぴったりだろう。
しかしリアルサラウンドに近いかと言われると、正直なところ個人的には音場の広さや空間的なリアリティはそこまでではないかな、というところ。もちろん、今回試したゲームのうちFPS系の「Apex Legends」では、前後左右上下からの音を区別することはできる。たとえば左前方の遠くの方で交戦中の射撃音が聞こえるから、建物や崖を壁にして右側の方から迂回して向かおう、という判断が直感的にできる。物音から仲間がどの方向にいるかも把握しやすい。
ただ、囲まれているように聞こえるとはいえ、どの音もヘッドフォンを装着している頭とその周囲数十cm程度の範囲に止まり、近いか遠いかの判断はその狭い範囲のなかで相対的に判断することになる。個人差はあるだろうけれど、どんなに遠くからの音であっても「モニターの向こう側から音が聞こえる」というような感覚はないので、正確に聞き分けて戦略に活かすためにはある程度経験を積む必要もありそうだ。
レースゲームのMotoGP 20では、ほとんどがエンジン音や排気音、風切り音のような連続的なノイズで占められる。バーチャルサラウンドではそういった単調な音が歪んで聞こえるような場合もあるのだが、7.1chモードではそれがない。元々がノイズを狙った騒がしい音なので、自然……と表現するのはちょっと違うかもしれないが、自分のマシンのエンジン音も、抜き去られて遠ざかっていくライバルの排気音も、あるいは置いてきぼりにされてどこか遠くから響いてくる集団の走行音(悲しい)も、常に違和感なく聞こえてくる。相変わらず音が鳴っている範囲は頭部の周囲に限られるが、レーストラックの雰囲気はたっぷり味わえる。
PS4ではバーチャルサラウンドとなる。PCと同じゲームで試せないので直接的な比較はできないものの、「音に囲まれている感」は7.1chモード譲り。ファイナルファンタジーVII リメイクでは、雑然とした狭苦しい雰囲気の7番街スラムを歩いていると、周囲で話している人の前後左右の位置や、後ろを付いてくるティファの位置がはっきり認識できるだけでなく、漏電している電線の音が頭上から来ていることもわかる。
「バトルフィールド」では、左右の壁の向こう側に敵がいるな、というのにもあらかじめ気付けるので、しっかり心の準備ができるというメリットもある。ただし、戦闘中は視界のアングルを頻繁に変えるのと、目立つ効果音が多重に鳴って指向性を感じにくくなるため、どの方向に敵がいるのか、どこから攻撃されているか、というのまでは判断しにくい。それで不利になるというほどでもないので、FF7リメイクの場合、少なくとも戦闘中のサラウンドの正確性はさほど重要ではないということだろう。
音質はクリアだがコンテンツを選ぶ性格か
サウンドの質としては、Quantum ONEはかなりゲーム用途に特化しているという印象だ。5.1chの楽曲再生では、QuantumSPHERE 360で聴くと壁を1枚挟んだ向こう側でドンシャリ鳴らしているような感じが強く、音の厚みも臨場感も薄い。この場合はどちらかというと専用ユーティリティでDTS Headphone X 2.0に切り替えた方が癖のないサラウンドらしい迫力が得られるだろう。
しかし個々の音の粒度、解像感は恐ろしく高く、高音域のサウンドのクリアさが際立っている。このあたりはANCをオンにしたときに特に目立ち、周囲のノイズが抑えられることが音質の向上にどれだけ貢献しているかがよくわかる。全体的な音の厚みは控え目ながら、なぜか極低音はROG Theta 7.1では聞こえないようなものまで響いてくるという独特の味付けも感じられる。映像・音楽鑑賞用途としてはコンテンツを選ぶところがありそうだ。
音場の広がりはROG Theta 7.1以上にあり、頭部周辺であることには変わりないが、それより1段階広い立体感が得られる。音像定位も明瞭で、「Apex Legends」では高さ方向の音をより区別しやすくなるイメージ。これもANCが効果を高めていそうだ。おかげで、崖の上の方で交戦中らしいから、隠れるようにしながら真下を通過して、反対側に位置取りして攻めよう、なんて行動も取れるようになる。
ヘッドトラッキングもうまく機能し、音が聞こえる方向に物理的に頭を向ければ正面から聞こえてくるようになる。戦闘中にいきなり真横に頭を向けるようなことはないにしても、画面の左右端から何か聞こえてきたときに、そちらへ視線と一緒にとっさに頭を動かすことくらいはあるはず。その瞬間、また別の方向から音が聞こえてきたとき、頭のなかで音の正確な位置を瞬間的に判断して視点変更し、素早く様子をうかがうのは難しいだろう。ヘッドトラッキング機能があれば、それも直感的に可能になるのだ。
しかしながら、ヘッドトラッキングが有効活用できるかどうかはゲームによっても異なりそう。Apex Legendsでは確かに音の方向としては期待した通りの効果が得られるが、ゲーム自体が位置や距離を音の強弱でシミュレートしている部分もあるのか、真横から聞こえるものを正面で捉えようとすると音が小さくなってしまう。このあたりがシビアな戦闘を繰り広げているなかでどこまで影響するか、今の自分のFPSスキルではなんとも言えない。
MotoGP 20だとノイズ的なサウンドが多いせいか、音質に金属的なものが感じられ、バーチャルサラウンドの“作り物感”が少し出てきてしまうようだ。極低音があるおかげでそこまで違和感はないけれど、やや聞き疲れしてしまうところがある。音場の広さは感じられるだけに、ちょっともったいないな、という感じ。
PS4では、解像感が高く極低音が響く音質ということもあって、FF7リメイクの街中でのささいな効果音から空気感まで精緻に表現してくれる。音像定位の精度もROG Theta 7.1との差はほとんど感じられないので、サラウンドサウンドという面では甲乙付けがたし、といったところだろうか。ANCについてはどのプラットフォームでも有効にできるので、ゲームに集中するにはもってこいのヘッドセットと言える。
ただこういったRPGだと、効果音の定位の正確さよりもキャラクターボイスやBGMの聞き心地の方が重要だろう。そういう意味ではQuantum ONEの実力を発揮しにくいジャンルのように思うし、ヘッドトラッキング機能もPS4(PC以外)では利用できないので宝の持ち腐れみたいなところがあるかもしれない。やはりQuantum ONEはPCで活用したいところだ。
一度試すとサラウンド以外でプレーしたくなくなる満足度の高さ
ROG Theta 7.1とQuantum ONEの2機種は、同じサラウンドヘッドセットというカテゴリーでありながらも、性格は大きく異なり、活躍する場面も変わる。ROG Theta 7.1は7.1chモードでのサラウンドのキレに加えて、ゲームのほか、映像・音楽コンテンツもオールマイティに扱えるバランスの良さが持ち味。音像定位が重要なFPSだけでなく、RPGのようなBGMをしっかり楽しみたいジャンルのゲームにも向いている。プライベートだけでなく仕事にも使いやすい性能、デザインは、ゲーミングデバイスといえども万人におすすめしやすい。
対してQuantum ONEは、その機能性の高さが活かせる用途が見つかれば、魅力にあふれたヘッドセットと言える。映像・音楽鑑賞が中心の人にはあまり向かないかもしれないけれど、ゲームをより広い音場で楽しみたい人、ボイスチャットを活用しつつ、ヘッドトラッキングによる直感的な空間把握で有利にバトルを展開したい人には特に適している。ANC機能も、FPSなどでは集中力を高めるのに効果的なはずだ。
はっきり用途が分かれたことで、筆者としては実に選びにくくなってしまった。基本性能と仕事での使いやすさも考えるとROG Theta 7.1だが、Quantum ONEの将来のキャリブレーション機能も含めたガジェットとしての機能性の高さ、面白さも捨てがたい。ただ1つ言えることは、2機種とも返却して手元からなくなってしまった今、どちらかを購入しない限りゲームをプレーする気がこれっぽっちも湧いてこない、ということである。
2chステレオの味気ないサウンドではもう満足できない。ゲーム(仕事)するならサラウンドじゃないと! というマインドになってしまい、そもそもサラウンドじゃない環境でわざわざゲームをプレーする意味があるのか!? と疑問に思うほど。まだエアリスに再会できていないのに、どうすればいいのか、困ったものだなあ。
2020-07-01 23:30:00Z
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