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Friday, August 21, 2020

ドクン、ドクン…。100光年離れたブラックホールと同じ鼓動を刻むガス雲の神秘 - ギズモード・ジャパン

ドクン、ドクン…。100光年離れたブラックホールと同じ鼓動を刻むガス雲の神秘 - ギズモード・ジャパン

なにかが生まれてくる予兆…?

直径およそ10万光年に及ぶ天の川銀河には、およそ2,000億個の星が輝いています。星と星のあいだにはガスや塵が漂っていて、濃い部分は「星間ガス雲」と呼ばれ、だだっ広い天の川銀河のところどころに立ちこめています。

このようなガス雲のひとつに、なぜか162日おきにガンマ線を放射しているものが見つかったそうです。さらに驚くことには、この「Fermi J1913+0515」と呼ばれているガス雲は、100光年離れた場所にあるブラックホールの活動と見事にシンクロしているのだとか。

8月17日付で『Nature Astronomy』誌上に掲載された論文が明らかにしたもので、10年以上の観測データをもとにドイツ・スペイン・中国・アメリカの研究者らが共同で発見しました。どうやってシンクロしているのか、なぜシンクロしているのかは、残念ながらまだわかっていないそうです。

マイクロクェーサーの鼓動

夏の星座の代表格、わし座。頭部に戴くアルタイルは、夏の大三角を形成しています。そのわし座付近、地球からは1万5000光年離れたところに、肉眼では見えませんが「SS433」と呼ばれる特殊な天体が確認されています。

SS433は人類が初めて発見した「マイクロクェーサー」。クェーサーとは銀河の中心に渦巻く超巨大ブラックホールが大量の物質をのみこみながら輝いている姿で、上下に吹き出す2本のジェットが特徴的ですが、マイクロクェーサーもこれとよく似た構造を持ち、2本のジェットを有しています。

そしてもちろん、マイクロクェーサーにもブラックホールが潜んでいます。とはいえ、クェーサー級のブラックホールと比べるとミニチュアのようなもの。SS433のブラックホールは10〜20太陽質量ぐらいで、そのお隣りには30太陽質量ぐらいの恒星があり、ふたつは重力で結びつきながらお互いをぐるぐる回り合う「近接連星」の関係にあります。

SS433は近接連星。こちらのイメージ画は左のブラックホールが右の恒星からガスをはぎとっている様子。Image: DESY, Science Communication Lab via Gizmodo US

小さいながらにも強大な重力を持つSS433のブラックホールは、お隣りの恒星から大量のガスをはぎ取っています。はぎ取られたガスは「まるでお風呂の栓を抜いた時、水が排水口のまわりを渦巻いてすぐには流れないように」して降着円盤に降り注ぎ、ぐるぐると回りながら次第にブラックホールに落下していく、と研究の筆頭著者であるドイツ電子シンクロトロン所属のJian Liさんは説明しています。

Liさんによれば、そのうちいくらかの物質は降着円盤に弾かれて、ブラックホールに落ちずにジェットとして上下の垂直方向に勢いよく吹き出されるのだとか。

ジェットはただ単に物質を遠くまでふっ飛ばすだけでなく、ガンマ線やX線も大量に放出しているそうです。ですから、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡を使って観測すれば、ジェットの姿を捉えることができるんですね。

よろめくジェット

さて、ここからが興味深いところ。

SS433のブラックホールのまわりに広がる降着円盤は、ブラックホールと恒星の軌道平面とぴったり重なっているわけではなく、若干のズレがあるそうです。

ブラックホールがこまのような形をしていると想像してみます。このこまはクルクルと自転しながら隣の恒星のまわりを公転しているわけですが、軸が傾いているために回りながらグラグラとよろめくんですね。

天文学ではこのよろめきを「歳差運動」と言うそうです。そして、この歳差運動があるために、SS433のブラックホールから吹き出しているジェットはらせんを描くのだとか。

よろめくジェットがらせんを描く様子。美しい…!Image: DESY, Science Communication Lab via Gizmodo US

そしてなんと、Liさんたちはこのらせん状に示される降着円盤のよろめきが実に162.25日の周期で起こっていることを発見したのです。冒頭に出てきたガス雲「Fermi J1913+0515」がガンマ線を放出するタイミングとぴったり!

果たして過去10年間にフェルミガンマ線宇宙望遠鏡が観測したデータを調べた結果、やはりSS433のよろめきとFermi J1913+0515のガンマ線放射とが完全に一致していることを突き止めました

トンネルでつながってる?

100光年も離れているのに、なぜシンクロしているのか。

不可解なことに、SS433から放出されているジェット2本はいずれもFermi J1913+0515と交差していないんだそうです。では、いったいどのように同期されているのでしょうか?

研究者Liさんは、SS433から流出している陽子がFermi J1913+0515と作用しているのではないか?との仮説を立てています。さらに、「干渉性を保つためには、SS433とFermi J1913+0515との間に磁気トンネルがつながっているとも考えられる」と米Gizmodoにメールで語っています。

「磁気トンネル」なんて素人にはすばらしくファンタジックな発想で、いっそホワイトホールなんじゃないか?とか、時空を歪めるワームホールがつながっているんじゃないか?とか勝手に夢想してしまいますけど。

そもそもクェーサー、そしてマイクロクェーサーのジェットがどのようにできるのかもまだ解明されていませんから、そこもガス雲との連動となにか関係しているのかもしれません。

答えは見つかっていないし、謎は深まるばかりですが、知っているだけでも夜空を見る目がちょっと変わりませんか。

夏の夜空に輝くアルタイルを見つけたら、その近くにはSS433が潜んでいて、2本のジェットで優美ならせんを描いていることを思い起こしてみてください。もしかしたら、その瞬間にもFermi J1913+0515が鼓動を刻んでいるかもしれませんよ。

Reference: JAXA, Nature Astronomy, Deutsches Elektronen-Synchrotron, 日本天文学会 天文学辞典

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2020-08-21 11:00:00Z
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