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Friday, November 26, 2021

テクノロジーは週4日労働をいつ実現するのか:SZ Newsletter VOL.110[FUTURE of WORK] - WIRED.jp

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日本では劇的な感染者数の減少によって、しばらくの間、つまりワクチンの効果が薄まりブレイクスルー感染による第6波が数カ月後に訪れるまでは社会が「通常」モードで推移する見込みだ。地元の鎌倉では週末に観光客が街に溢れ、「あぁ、以前はこうだったな、週末のランチなんて観光客が並んでいてどこも入れないんだった」と懐かしさを覚える始末だ。

さて、あなたの働き方は、どうなっただろうか? 1年半以上にわたる断続的な感染拡大と収束は、まるで異常気象がいつの間にか馴染みの空模様となっていくように、当初は一時的なものに思われたリモートワークやオンラインミーティングを社会や企業文化になじませるのには充分な長さだったように思う。

朝起きて寝間着に一枚羽織ってチームのミーティングに参加したり、けっきょく一度もリアルに顔を合わせることのないまま完了していくプロジェクトをいくつもこなしてきたことで、その利点も足りない部分も、一人ひとりが経験値とともにジャッジできるようになったはずだ。ミーティングのための移動という頭の切り替え時間や、合間での雑談がどれだけ大事かというその価値は、まるで今季の大谷翔平選手のように広く再認識され、オンラインMTGの詰め込みすぎで一日トイレに立つ時間すらなかったという武勇伝も、もはやワクチンの副反応と同じぐらいありふれたものになった。

いま、社会が「開いた」時期に改めて問われているのは、その経験値をもとにぼくたちがどういう働き方を選ぶのか、ということだ。実際のところ、WIRED編集部の様子を見ていても、以前よりもオフィスでチームのメンバーと顔を合わせる機会が増えてきたように思う。細かいニュアンスや感情レヴェルのすり合わせもできるようになった反面、当然ながら、仕事への集中を妨げるあらゆることが飛び込んでくるようにもなった(以前はこれがデフォルトだったなんて!)

今週の記事:久しぶりのオフィスワークで集中できない? 神経科学が教える8つの集中法

『WIRED』ではこれまでもこのSZメンバーシップをはじめさまざまな機会に「FUTURE of WORK(働き方の未来)」を特集してきた。それはコロナ禍でのオフィスの在り方だったり、あるいはメタヴァースでの「無限のオフィス」についてだったりしたわけだけれど、今週は、働きすぎやバーンアウト(燃え尽き症候群)について改めてこのタイミングで紹介している。それこそが、ワクチン接種証明書と同じくパンデミックを経てぼくたちが手にした紛れもない実態だからだ。

今週の記事:わたしたちはなぜ働き過ぎるのか?〜持続的な20%の過負荷を回避する方法

今週の記事:いまこそバーンアウト(燃え尽き症候群)に社会が体系的に取り組むときだ

今回、改めて考え込んでしまったのは、働きすぎによるバーンアウトを防ぐには「自律性と主体性を高めること」が勧められている一方で、働き過ぎの要因である「持続的な20%の過負荷」が、まさに自律的で裁量を任されるからこそ生まれる構造的なものだという指摘だ。そして、これは二律背反なのではなく、得てして「仕事の分量そのものには自律性も主体性も働きにくいのに、“働き方”にだけは自律性が確保されている」という状態があって、それがこの1年半で加速したのだと思う。

そして正直に言えば、それは身に覚えがあることでもある。WIRED編集部の働き方も、徹底的に自律的で各自が主体性をもって(あるいは、放任されてと言っていい)いつどこで何をしていてもいい反面(昔からぼくはそういう管理はいっさいしない派だ)、そこにある業務量は半端ないという現状がある。そして、社会においてもWFH(自宅勤務)やワーケーションがますます普及する現在、ここを解決しない限りは、いくら小綺麗なワークプレイスが街に増えようとも、幸せな「FUTURE of WORK」は訪れないのではないかと思うのだ。

ぼくが期待を寄せてきたのは、週当たりの給与は5日分を維持しながら出勤日が1日少ない「週4日労働」だ。もちろん、表向きは週休3日になったからといって、その実態は週末まで仕事を持ち越し、何なら週末のほうがZoomやミーティングもなく集中して仕事ができるという現状から少しも変わらないのではないか、という指摘はとても正しい。それに、そもそも可能な職種とそうでない職種があるのも確かだ。

関連記事:週4日労働は“ユートピア”ではないのかもしれない

だけれど、例えば英国では国民の6割超が支持していて、アイスランドでの社会実験でも結果はウェルビーイングや生産性がアップしているという。結局のところ、ぼくの世代はサラリーマンの親でもかつて週6日働いていたし、学校も土曜日まであった。制度が変わることで人々の意識も少しずつ変わってきたことを、身をもって体験してきた世代でもある。だからこの記事にあるように、「目指す価値のある目標」だと思えるのだ。

関連記事:実は“週4日勤務”で生産性が高まる? アイスランドでの社会実験から見えてきたこと

ほかに先駆けて週5日動労に舵を切ったのは銀行だったという。それはATMの普及と軌を一にしていたからだ。つまり、テクノロジーの普及が後押しして、社会に新しい常識が生まれたのだ。それに比べてぼくたちは、ZoomやTeamsになったからといって1日に2ケタに迫るミーティングを入れ込もうとする始末だ。この20年、あれだけ翻弄されてきたメールとの距離感がやっと分かり始めた人類は、また同じ過ちを繰り返そうとしているのかと思うと暗澹たる気持ちになる。

関連記事:“受信トレイの恐怖”から、いかに逃れるか? メールとの正しい付き合い方を考える

もちろん、働く人にも働き方にも多様性が求められる時代に、週4日労働を一律で押し付けることが妥当なのかと訝る向きもあるだろう。ここで休日が目に見えて増えることは、ケインズが予言した「週15時間労働」を、ささやかではあるけれど100年越しで前に進めていくことの象徴なのだ。だからそのやり方は、1日3時間とはいかなくてもまずは5時間労働を試してみてもいいし、週7日から自由に働く日にちを選べるようにしてもいい。

関連記事:仕事の効率を高める「5時間労働」の利点と、実践して見えた課題

関連記事:週休3日も可能になる。勤務時間を自由に決められる“週7日勤務”の利点

今週のこのニュースレターのタイトルは「テクノロジーは週4日労働をいつ実現するのか」だけれど、みなさんも日々スクリーンとキーボードをまるで世界を映す水晶玉のように眺め続けながら薄々気がついているとおり、いまやとっくにテクノロジーはそれを実現している。だからFUTURE of WORKを実現するのは、「週4日労働」が当たり前となった時代からバックキャストでいまを見つめる態度であり、仕事量とその自律的な働き方の裁量を、いかにして週4日に収斂させられるかという不断の試行錯誤をいまから始めることなのだと思うのだ。

『WIRED』日本版編集長
松島倫明

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11月25日(木)のゲストは酒井里奈(ファーメンステーション 代表)
次回のテーマは、“「発酵」の力で実現する循環型社会のこれから”。発酵技術を用いてコメやリンゴなどの“かす”から高濃度のエタノールを抽出し、これを原料にした化粧品や日用品などを自社開発しているファーメンステーション。代表の酒井は、こうした発酵技術を用いて循環型社会を形成していきたいと思い描いてきた。その先に、どんなサステイナブルな社会がつくられていくことになるのか。酒井が考える循環型社会のあり方について訊く。詳細はこちら

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