これはキツそうだ…。
イーロン・マスクが全地球にネットを届けようと2019年5月から低軌道上にバンバン打ち上げているスターリンク衛星。日本でも空を連合艦隊のように飛ぶ謎な姿が確認されていましたよね。
こうやって衛星を大量に打ち上げて実現するインターネット通信網のことを「メガコンステレーション」と呼びます。一番有名なのはSpaceXのStarlink(のべ4万2000基の打ち上げを予定)ですけれど、競合もあって、たとえばTelesat、Rocket Lab、OneWeb、Amazonなどが有名どころ。
こんだけゾロゾロ飛べば、心配なのは天体観測写真です。映り込まないの⁉って考えはじめると夜もまんじりと眠れませんよね!
今の観測には問題なし
そんな不安に応えるように、カリフォルニア工科大学元ポスドク研究員のPrzemek Mróz氏率いる研究班が影響を調べて論文を公開しました。結論から言うと、今のところ氏の所属するサンディエゴ郊外同大パロマー天文台天体観測施設ZTF(サンディエゴ郊外)の現場の業務には特に深刻な影響はないとのことです(ホッ…)。
でも問題はこれから
ただ、今のペースで増え続けると、今後どうなるかはなんとも言えないし、他国がもっと高い軌道に飛ばしたら楽観を許さない状況だとも述べています(げ、やっぱり⁉)。
ZTFの天体観測写真には2年足らずで5301本の縞(光跡)!
ZTFが観測で使うのは、光学波長と赤外線波長の両方です。これで2日おきに夜空全体をスキャンして、小惑星や彗星の出現、星の暗転、中性子星の衝突といった急激な変化がないか観測しています。調査ではアーカイブ保存した2019年11月から2021年9月までのデータを分析してみたのですが、なんとスターリンクによる縞(光跡)が5,301本も映り込んでいたのです!「SpaceX社が打ち上げる衛星が増えるにしたがって、影響を受ける画像の数も増えている」ことが再確認されたかたちです。
魔境は日の出と日没のトワイライト
特に影響が大きいのが早朝と夕方に撮影した写真で、2019年末には薄明りの写真の0.5%未満に映り込む程度だったのが、2021年8月には18%に急増していました。Starlinkは地上約550kmの低軌道を飛ぶ衛星網なので、太陽が地平線に近い日の出と日没の時間帯には日光をもろに弾いて天体観測の妨げになってしまうのですね…。まさにトワイライトゾーン。
天文学の専門家は、日の出と日没の時間帯に太陽付近を観測して地球接近中の小惑星がないか見張るのも仕事ですし、ZTFが完全に金星の軌道内にある初の小惑星「2020 AV2」を発見したのもこのアプローチによるものです。
ところが論文によれば、Starlinkの衛星打ち上げ台数が1万基の大台に乗ると(SpaceXは2027年内達成を予定)、トワイライトの時間帯に撮影するZTFの天体画像すべてに最低1本の衛星光跡が映り込む計算。SpaceXは今月18日夜にもファルコン9ロケットでStarlink衛星49基を低軌道に放ち、Starlinkメガコンステレーションは合計2000基以上になったばかり。そう遠くない将来、日の出・日没は全滅になっちゃうってことになります。
ほかの時間帯は大丈夫ってこと?
ではほかは大丈夫なのかというと、そうでもないらしく、カリフォルニア工科大のプレスリリースのなかでMróz氏(現在はワルシャワ大)は次のように述べています。
「Starlinkの衛星単体でトワイライト以外の時間帯の写真に影響が出ることはないと予想するが、他社のコンステレーションがもっと高軌道に打ち上げられた場合、トワイライト以外の時間帯の観測にも支障が生じる可能性は否めない」
ちなみに英通信会社OneWebが予定している運用高度は上空1,200kmで、低軌道をちょっと出る程度。微妙だなぁ…。
白飛びはないの?
研究班は衛星の光跡1本で損なわれるピクセルの数も検証してみましたが、ZTFの天体画像1枚の全ピクセル数の推定0.1%で、「大きな数ではない」ことが確認されました。まあ、微々たるものかもしれませんが、論文ではこうも書かれていますよ。
「単にピクセルの損失数を数えるだけでは問題の全容は見えてこない。たとえば、衛星光跡を特定・消去する作業にかかる労力、光跡によって未確認の物体を発見し損ねる可能性も考慮しなければならない」
論文共著者のThomas Prince氏(カリフォルニア工科大天文学者)はこうも述べています。
「衛星の光跡の影に隠れて小惑星や天体現象を見落とす可能性もあるが、曇天などの天気の影響に比べたら、ZTFにとってはかなり小さな影響といえる」
SpaceXにもコメントを求めましたがまだ返答はきていません。
光量を減らす対策の効き目は?
最初は米政府のSpaceX担当もビックリ仰天のテカリようでしたが、2020年には反射予防のバイザーを取り付けたりの対策を施したSpaceX。おかげで今回調べてみたらStarlink衛星の明るさは4.6分の1に減っていました。つまり今は6.8等級(一番明るいのが1等級で、値が大きくなるほど暗くなる。6等級を超えると人間の肉眼では捉えることができない) 。目で見えなくなったのは大改善な半面、米天文学会の作業部会「2020衛星コンステレーション1」がLEO(低軌道)衛星に求める光度は7以上。もう一歩足りません。あとひとがんばり、ですね。
世界最大32億画素天体カメラは不安しかない
なお、論文で検証したのはZTFの観測に与えるStarlinkの影響だけです。天文台や衛星によって影響の出方や度合いは異なります。チリでもうじき操業開始となるヴェラ・Cルービン天文台では、せっかくの最新機材(世界最大32億画素のカメラ!)がメガコンステレーションで台無しになるかもと早くも言われていますし、ラジオ波の障害や心霊写真のような映り込みなどの懸念も指摘されています。全世界ネット網実現!と喜んでいたら知らぬ間に隕石ドッカーンなんてことにならないよう、しっかり見守っていきたいですね。
2022-01-24 14:00:00Z
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