■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、H.I.S.モバイルが発表した新料金プランを中心に、MVNOについて話し合っていきます。
H.I.S.モバイルは儲かるの?
房野氏:H.I.S.モバイルから、100MB以下で290円/月に加え、音声通話料が30秒あたり9円の新料金プランが登場しました。どのような印象をお持ちですか?
石川氏:H.I.S.モバイルの新料金プランを見て感じたのは、MVNOは現在、「将来原価方式」といって、3年後くらいまでの接続料が各キャリアから提示されている状態なので、これを見ると値下げせざるを得ないよねということです。H.I.S.モバイルの料金プランでいえば、1GBで収まる人は少ないだろうとはいいつつも、料金を下げすぎている印象は否めないので、いつになったら儲かるのかなと心配になります。
石野氏:ただ、H.I.S.モバイルがいうには、もともと契約していなかったユーザーが来てくれるので、提供料金を下げたところで、0円が290円になるからプラスだろうと。確かにそれもそうかなとは思いました。
一方で、狙いはフィーチャーフォン、3Gのユーザーを巻き取りたいという話で、OCNモバイルONEの、500MBで550円/月の料金プランと、狙っている顧客層は近いと話しています。それなら4G携帯というか、Androidフィーチャーフォンのようなものがあったほうがインパクトはあったと思います。あと、ドコモショップで契約できる「エコノミーMVNO」と戦っていくことになるので、状況は厳しいなぁと思いました。
石川氏:今までフィーチャーフォンを使っていた人が、いきなりH.I.S.モバイルに乗り換えるかといわれると、ちょっとハードルは高いし、そもそも選択肢に入ってこない気がします。一方で、H.I.S.モバイルには7GB/990円のプランもある。これは、キャリアでずっと料金プランを変更していない人だと、月々の通信利用量が7GB未満の人も多いと思うので、乗り換え先になるかもしれないと思います。
石野氏:290円プランは、フィーチャーフォンユーザー本人が乗り換えてくるというよりは、子どもが親に安い料金プランを勧める想定をしていて、だからこそショップも作っています。
石川氏:自分の親もスマートフォンを使っているけど、以前LINEモバイルにあった1GBで500円/月のものを契約しています。親子で連絡を取りあうためのSIMとしてなら、ありかなと思いますね。H.I.S.モバイルの社長(H.I.S..Mobile株式会社 代表取締役社長 猪腰英知氏)が言ってたけど、親世代はどうしても長電話をするし、長く話している意識がない。なので、長電話をしても、料金が上がらないようなプランを用意したとのことです。MVNO各社が、かけ放題プランを提供できるようになったので、選びやすくなったし、いろいろな人に勧めやすくなりました。
法林氏:シニア層の人たちは、通話にお金がかかることが多いとされてきましたが、ようやく通信を提供する側が目を向けたなと思います。ただ、相当しんどいのは事実でしょうね。H.I.S.モバイルという名前がどこまで通用するかという話もあります。
石野氏:似たようなプランを日本通信も提供しているんですけど、信用度はH.I.S.モバイルの方が高そう。
法林氏:どっちも上場企業だよ?(笑)
石野氏:そうなんですけど、「日本の通信」っていう名前から来る印象がでかすぎるし、NTTよりも凄そうじゃないですか(笑) H.I.S.は旅行業の最大手ですし、知名度があります。そういう意味では、「H.I.S.が提供する」ってちょっとメジャー感があるなと思います。
石川氏:猪腰氏の発言で気になったのが、当初は「H.I.S.のお店で対応するのが一つの魅力」と話していたのに、この前聞いたら、「旅行を契約しに来た人は通信に興味がない」と。そこで通信を勧められても、契約には至らないから、専門店を出すと話していて、そりゃそうですよねと思った。楽天モバイルも郵便局で一生懸命売っているけど、この組み合わせもムリがあるかなぁと考えています。各社いろいろな場所で販売する試みはしてきたけど、やっぱり通信をどうにかしようと思ったら、キャリアショップに行きますよね。
法林氏:キャリアショップじゃないにしても、家電量販店とかになっちゃうよね。
石野氏:一応、郵便局は通信と同じ総務省管轄という括り方はできます。起源は同じというか(笑)
法林氏:郵便局にしても、H.I.S.にしても、キャリアショップは通信のことをやるとわかりきっている一方で、お客さんにはまる、はまらないは絶対にある。どこまでいけるのかはちょっと気になるところですね。
石野氏:ただ、郵便局でうまくいくなら、IIJはもっとうまくいけたはずなんですよ。
房野氏:そうですよね。
石川氏:でも、IIJはパンフレットを置くだけだったけど、楽天モバイルはカウンターも設置している。郵便局は人が定期的に行く場所ではあるので、1回目で楽天モバイルが受付していることを認識して、次のタイミングで契約するといった流れはあり得ると思います。
石野氏:旅行代理店は、海外用のSIMとか、Wi-Fiルーターとかはいいかなと思うんですけど、なぜかH.I.S.モバイルは、海外渡航者向けのSIMを5月にやめてしまいました。
房野氏:コロナ禍と重なって少し不運でしたね。
石野氏:不運ではあるんですけど、これから海外旅行も復活しようかというタイミングなのになぁと思ってしまいます。
あとは競争力かなと思います。今の料金プランだとahamoにしたほうがいいかも……となりかねません。
法林氏:ahamoは最初こそごたごたしたけど、環境が整ってきているので、MVNOに乗り換えようというモチベーションになっていかないんじゃないかな。
NUROモバイルは20GBプランにテコ入れ
房野氏:NUROモバイルは、逆に大容量プランにテコ入れをしましたね。
石野氏:既存の20GBプランに含まれていたサービスをカットして、その分安く提供する形ですね。これまでの料金プランだと、povoやLINEMOと価格がぶつかってしまっていたので、選ばれにくかった。そこで、不要と思われるサービスをバンバンカットして、2090円/月になりました。キャリアのオンライン専用プランより安くなりましたね。
石川氏:とはいえ、月々数百円程度の価格差で、乗り換えのモチベーションにつながるのかといわれると、ちょっと微妙ですよね。
法林氏:あと、そこまで細かく料金差を意識している人ってどのくらいいるのかは疑問。
石川氏:キャリアやMVNOが発信している情報や、我々が話しあっていることが、どのくらい一般ユーザーに伝わっているかって、最近はふとした時に考えちゃうんですよ。
法林氏:まぁね。プラン内容などをきちんと説明できれば、納得してくれる人はいるけれど、自分から調べて契約してっていう人はなかなかいないと思う。我々も努力が足りないよね。
……続く!
次回は、キャリアのオンラインショップについて会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦
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