タイでクラフトビールの人気が、じわりと高まっている。ただ、タイ政府は酒類製造を厳しく規制しており、タイのビール市場は大手2社の寡占となっているのが現状だ。このため、クラフトビール事業者は苦肉の策として、国内で違法に製造したり、近隣国で醸造した商品を輸入して販売したりしているという。(バンコク・藤川大樹、写真も)
◆近隣国で製造して輸入
バンコク市内で9月下旬、クラフトビールのイベント「ビア・デイズ」が開かれた。大雨が降ったにもかかわらず、会場には多くのビール事業者のブースが並び、若者らでにぎわった。
まず目に入ったのが、沈む夕日にヤシの木とたこが描かれた、オシャレなラベルのクラフトビール。
日本語で「美学」を意味する「スントリー」というバンコクの酒造会社が販売する「ティッロム(そよ風に吹かれて)」だ。トロピカルフルーツのような味わいが、女性から人気だという。だが、ラベルの後ろを見ると、醸造場所はカンボジアの首都プノンペンとなっていた。
バナナの香りと爽やかな飲み口が売りの「ムアイタイ」は、ベトナムで醸造されていた。1杯180バーツ(約700円)で、街中で売られているビールと比べると割高な感は否めない。
◆ビール製造で寡占の背景は
タイでは食の安全を理由に、酒類製造は物品税法で厳しく規制されている。事業者は財務省物品税局長の許可が必要で、ビール製造には1000万バーツ(約3800万円)以上の資本金や一定の生産量が求められる。
このため、タイのビール市場は、日本でもなじみのある「シンハービール」を販売するブンロート・ブリュワリー社と、象のラベルで知られる「チャーンビール」を販売するタイ・ビバレッジ社の寡占が続く。これに対して、国民からは「大企業優遇だ」と批判の声が上がっている。
5年前にバンコクの自宅でビール製造を始めたボールさん(40)は「今の仕組みは、国民のためになっていない」と憤る。自宅で醸造したビールは違法なため、スーパーなどには陳列できず、ビア・デイズのようなイベントでしか販売できない。
◆自由に製造・販売へ「法改正を」
タイの国会では、規制緩和を訴える野党・前進党のタオピポップ下院議員らが物品税法の改正案を提出し、2020年から審議が続く。改正案は通称・進歩的な酒類法と呼ばれ、酒類製造会社の資本金や生産量の制限をなくす内容だ。
タオピポップ氏は17年1月、無許可でアルコールを販売したとして逮捕され、有罪判決を受けた経験を持つ。それだけに、法改正には並々ならぬ意欲を燃やす。
ビア・デイズの会場でクラフトビールを片手に、ほろ酔い状態のタオピポップ氏を見かけた。
「『地ビール』大好きです」
片言の日本語で気さくに応じながらも、タイのクラフトビールの現状を尋ねると、「ビール造りを愛する小規模事業者や一般の人たちが、自由にビールを製造・販売できるようになることを願っている」と表情を引き締めた。
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