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Tuesday, January 30, 2024

厳しく叱れない時代に、どうやって組織を動かすのか(庄子寛之) - 教育新聞

校長より、教員の権利が強い時代?

 相手のためを思って叱ると、すぐに「パワハラ」と言われてしまう。褒めて伸ばそうとすると、調子に乗って努力をしない。放っておくと「無責任」扱いにされる。何をやっても文句を言われる。

 これらは、学級担任と児童・生徒だけのことを言っているのではない。気が付けば主導権は、校長や教育長ではなく、教員や指導主事が握っている。つまり大人と大人の関係でも立場が逆転している場合がある。

 そんな状態に苦しんでいる校長や教頭の話を数多く聞いてきた。善かれと思って行っていることが、学校に浸透しない。どうすればいいのだろうか。

学校現場で感じる違和感

 私は、優れた実践を行っているとされる学校や教育委員会を訪ねることが多い。「私の学校ではこんなことをしています」と意気揚々と説明する校長や教育長の話を聞いた後の夜の会で、「庄子先生、なんとかしてくださいよ」と愚痴る現場の教員や指導主事に囲まれる。そんな事態に何度も遭遇してきた。

 私もついこの間まで教員であった。愚痴る教員たちにはとても共感する。たとえ良い策でも現場は大変なのだ。「今でも大変なのに、新しいことを勝手にやるな。その手柄を学校長や教育委員会のものにするな」。そう言いたくなる気持ちは痛いほど分かる。

 この立場になって、教育委員会の人たちと話す機会が増えた。もちろん自分たちがいる間に爪痕を残したいと考える自治体や学校のトップリーダーがいないわけではない。しかし、ほとんどの人たちが自分の自治体や学校をより良くしたいと思って活動している。市区町村や文部科学省も同じである。

遠藤教育長が考える組織の動かし方

 現場の意見に耳を傾けつつ、組織を前に進める方法はないのだろうか。私は、教員時代から、どうやったら現場の反対を乗り越え、時代を前に進めていけるのかについて興味を持っていたのだが、今回、熊本市教育委員会の遠藤洋路教育長に話を聞く機会があった。熊本市は、コロナ禍の前からタブレット端末の活用などさまざまな先進的な改革を行ってきたことで知られている。以下、私の質問に、遠藤教育長が答えたやりとりを紹介する。

 □  □  □

 ――なぜ、熊本市ではこれほどまでの改革ができるのですか。反対する人はいないのですか。

遠藤教育長 反対する人はもちろんいるでしょう。でも、反対意見もあれば、賛成意見もあるわけです。子供たちの未来のためにやった方がいいと思うことはやります。自分の軸をしっかり持ってぶれないことが大切だと考えています。

 ――反対があるとできないと考えるリーダーが多くなっているように感じますが、反対意見があっても改革をできるのはなぜですか。

遠藤教育長 将来を予測して最善を尽くすのがリーダーの仕事です。今は嫌がられても、後から必要だと分かってもらえることなら、自信を持ってできます。最初から嫌われる前提で提案することも多いので、反対されたらやらないなどは考えていません。もちろん、話も聞いた上で決めますし、全部はできませんよ。

 ――教育長として気を付けていることはありますか。

遠藤教育長 部下にとって予測可能であることですかね。教育長ならこういう判断をするだろう、と考えてもらいながら、関わりを通して、部下の未来を予測する力も伸ばしていきたいと思っています。

 □  □  □

 遠藤教育長は、インタビューをしている間もぶれない。「文科省の考えに従うだけでない」「やると言ったことはやる」。強い言葉がたくさんある中で、何度も何度も「子供たちのため」「先生たちのため」と言う言葉が出てきた。ぶれない心の中にも愛があるのだろう。現に熊本市教育委員会の指導主事の多くは生き生きとしていた。Kumamoto Education Week(くまもとエデュケーションウィーク、2024年1月20~28日)の最中であったから忙しかったはずなのに、笑顔で接してくれた。

大切なことは確固たる思い

 「みんなちがってみんないい」では解決できないことがある。誰も賛同してくれなくても、前に進めなければいけないこともある。どんな提案でも、最初は痛みが伴うだろう。その考えを否定してくる人もいるかもしれない。しかし、その痛みを恐れていては前に進むことはできない。

 熊本市が最先端の教育を行っていることは事実だ。ただ、もちろん現場の教員全員が良い教育者というわけではないだろう。話を聞いて、最後は自分で判断し、たとえ反対が多くてもその判断を正解にする。そのために誰よりも汗をかき続ける。そんな確固たる思いが、校長やトップリーダーには必要なのではないかと感じた。

 これは、トップリーダーだけの話ではない。新卒だろうが、教員であれば、教室の中であなたはトップリーダーなのだ。子供たちが嫌だと言ってもやらせるところはやらせないといけない。しかし、そこに思いがなく、先輩の教員がやれと言っているからやらせているだけなら、子供はすぐあなたについてこなくなるだろう。

 子供たちのことを思い、多数決に頼らない判断をする。そんな覚悟と決断の繰り返しが、教員にも管理職にも必要なのだと思う。

子供たちのために確固たる思いを持って接することができているか

 最初に書いた通り、全ての「教える側」の人にとって、難しい時代になった。自分たちが教わったやり方がまったく通じない。現場の教員もまさにそうだろう。知識も技術も経験も過去のものになり、昔と同じように教えれば教えるほど、動かずに反発する人が大人にも子供にも多くなった。相手のための指導も、響かず無視され、結局結果が出ない。学級担任をしていると、目の前の子供だけでなく、その背後には保護者もいる。どうしても流されてしまうこともあるだろう。

 そんな時は今回の記事を思い出してほしい。子供たちの幸せを願い、子供たちが大人になった時に活躍できる力を育てる。そう考えれば、現場の1日でやらなければいけないことは明確になってくるだろう。

 その中で愛を持って子供たちに接する。褒める、叱るにも愛がなくては伝わらない。その熱量があるからこそ、人はついてくるのである。私も、日本の教育をより良くしたいという熱量を常に忘れず、自分の中の確固たる思いを持って仕事をしていきたい。

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