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Sunday, May 26, 2024

マイクロクエーサーSS433に付随する分子雲から近紫外線放射を発見 ~分子雲温暖化の原因を特定~ - 国立天文台 野辺山

マイクロクエーサーSS433に付随する分子雲から近紫外線放射を発見 ~分子雲温暖化の原因を特定~ - 国立天文台 野辺山

マイクロクエーサーSS433に付随する分子雲から近紫外線放射を発見
~分子雲温暖化の原因を特定~


【本研究のポイント】
  • 大質量星や超新星残骸などの高エネルギー現象で放射される近紫外線放射が、マイクロクエーサー注1)SS433の相対論的ジェットと相互作用している分子雲注2)で検出された。
  • 分子輝線の放射強度と近紫外線の放射強度との比較から、近紫外線放射は分子雲の背後から放射されていることを発見。
  • SS433の相対論的ジェットと分子雲が直接相互作用していることを明らかにした。
【研究概要】
 名古屋大学大学院理学研究科の山本 宏昭 助教、竹内 努 准教授、石川 竜巳 博士前期課程学生の研究グループは、地球から約1.8万光年離れたマイクロクエーサー SS433の相対論的ジェットに付随する分子雲から、近紫外線が放射されていることを発見しました。
山本 助教らは、近紫外線のアーカイブデータとSS433に付随する分子雲の比較を行ったところ、SS433に一番近い場所にある分子雲で近紫外線が放射されていることを発見しました。近紫外線の放射領域は分子雲の広がりとほぼ一致しています。分子輝線、遠赤外線のデータとの比較から、近紫外線放射は分子雲の背後、SS433のジェットと分子雲の相互作用面から放射されていることを明らかにしました。この紫外線放射が分子雲や分子雲中の星間ダストを暖め、暖められた星間ダストが遠赤外線で再放射していることを突き止めました。この結果は宇宙線の粒子加速や空間的に構造を分解できないクエーサーの物理現象の理解に役立つと考えられます。
 本研究成果は、2024年4月8日付日本天文学会欧文研究報告『Publications of the Astronomical Society of Japan』に掲載されました。

【研究背景と内容】
 マイクロクエーサーの1つであるSS433は、最も強力なジェットを出しているマイクロクエーサーです。SS433から吹き出されたジェットは根元での速さが光速の26%(秒速78,000km)に達し、伝搬中に減速するものの、相当な速さで周囲の星間物質に衝突します。この速さは超新星爆発よりも速く、また、超新星爆発は一過性の現象であるのに対し、マイクロクエーサーのジェット、特にSS433のジェットは長期間にわたり放出され続けているため、周囲の星間物質に与える影響は超新星爆発よりも大きいと考えられます。
 今回、このようなジェットと直接相互作用していると予測されていた分子雲から近紫外線放射を発見しました(図1)。この領域では、野辺山45m鏡の観測により発見された分子雲と、SS433の主星が星としての死を迎えた時に起こした超新星爆発とその後放出されたジェットにより奇妙な形に変形した電波連続波と、X線で見えるジェットの3つが同じ視線方向上に存在しています。本研究では、この分子雲において、分子雲とほぼ同程度に広がる近紫外線放射を発見しました。
 図2は近紫外線放射領域を拡大したものです。分子雲の高密度領域から放射される13CO(J=3-2)輝線注3)の放射強度は、観測された近紫外線放射の強度と反相関の分布を示していることが分かりました(図2a)。特に、近紫外線放射領域の中央部分では近紫外線放射が弱く見え、そこに高密度分子雲が多く存在していることが分かりました。この反相関の分布は、分子雲よる近紫外線放射の減光が効いているためだと考えられます。このことは近紫外線放射が分子雲の奥から放射されていることを意味します。また、そこではCO分子がよく励起注4)されており(図2b)、同じあたりの場所で遠赤外線放射が強くなっていることが分かります(図2c)。
 過去の研究で、この部分の分子雲の温度が約55Kと求められています(Yamamoto et al. 2022)。一般的な分子雲の温度は10Kから20K程度なので、この55Kという温度は、何か外からの熱源による暖めがない限り、達成できません。これらの結果を総合すると、分子雲の背後から放射された紫外線放射が、分子雲を暖めていると考えられます。また、分子雲に含まれる星間ダストも同様に近紫外線放射によって暖められ、暖められた星間ダストが遠赤外線で再放射していると考えられます。
 この結果から、紫外線放射はジェットと分子雲が直接相互作用している、その相互作用面で放射されていると考えられ、図3のような状況になっていると想像できます。これにより、今回、分子雲とジェットが直接相互作用していることを確実なものにしました。

0527-yamamoto-fig1-s
図1.近紫外線放射(赤)、電波連続波(緑)、X線放射(青)の強度分布の三色合成図に、分子雲の分布をコントアで描いた図。白丸で囲まれた分子雲が本研究で注目した分子雲。
0527-yamamoto-fig2-s
図2.近紫外線の放射強度分布(紫→青→水→緑→黄→橙→赤の順に強度が強くなる)に、以下のコントアを重ねた図。(a): 高密度分子雲(13CO(J=3-2))、(b): CO(J=3-2)とCO(J=1-0)のピーク温度比、(c): ダストの熱放射。
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図3.近紫外線放射のイメージ図。上図はこの領域の様子を上から見た想像図。下図は観測結果で、上図と対応させている。上下の図共に、青がSS433のジェット、赤が近紫外線放射、緑が分子雲の分布を示している。下図のコントアは13CO(J=3-2)輝線の放射強度の分布を示しており、緑で示した分子雲よりも高密度の領域を示している。

【成果の意義】
 本研究では、高速度のジェットと分子雲が直接相互作用している現場を銀河系内で初めて明らかにしました。同様の例は遠方の銀河で見つかっているものの、その遠さのために詳しく調べることができません。
 本研究は、このような遠方銀河におけるジェットと分子雲の相互作用の理解につながると考えられます。また、ジェットと分子雲の相互作用面では衝撃波が発生します。超新星爆発は、このような衝撃波面で宇宙線粒子の加速が起きます。衝撃波面が維持される限り、宇宙線粒子をどんどん加速でき、どんどんエネルギーを得ることができます。
 超新星爆発は一過性の現象のため、衝撃波面を維持できる時間に限りがあり、超新星爆発で加速できる宇宙線粒子のエネルギーには限度があります。一方で、SS433では長期間にわたり、ジェットが放出されているため、衝撃波面を長期間維持することができます。これにより、超新星爆発よりも宇宙線粒子を高いエネルギーまで加速できる可能性があり、現代天文学の謎の1つである、銀河系内のPeV(ペタエレクトロンボルト)のエネルギーをもつ宇宙線粒子の起源の1つになり得ると考えています。
 さらに、マイクロクエーサーはクエーサーのミニチュア版であることから、クエーサーの物理現象を近場で見られることができます。クエーサーは遠方にあるため、現在のどの望遠鏡を持ってしても、その構造を分解することができません。一方で、マイクロクエーサーはその近さのため、周囲の構造を容易に分解して、詳しく調べることができます。このように、マイクロクエーサーの周辺環境を詳しく調べることは、クエーサーの物理的理解の助けになると考えられます。

 本研究は、科学研究費補助金(19K03912, 21H01128)、及び、統計数理研究所の共同研究経費 ”New Perspective of the Cosmology Pioneered by the Fusion of Data Science and Physics”の支援のもとで行われたものです。

【用語説明】

注1 マイクロクエーサー:
ブラックホールと星の近接連星系の内、ジェットを放出している天体のこと。伴星の巨星化などにより、主星の重力圏に伴星のガスが入り込むと、伴星のガスが主星に取り込まれる。こうして、主星に降り注いだガスは、主星の周りにガスディスクを形成し、そこからジェットを放出する。クエーサーのミニチュア版ということから、マイクロクエーサーと名付けられている。
注2 分子雲:
銀河系の主要構成要素の1つ。他には星間ダストと星がある。分子雲の主要構成要素は水素分子だが、電気双極子モーメントを持たない水素分子は低温下では放射を出さない。分子雲中で水素分子の次に存在量が多く、かつ化学的に安定である一酸化炭素分子が出す放射を観測することで、分子雲の物理量、性質や運動を調べることができる。一酸化炭素分子は12C16O(CO)が主として存在している。その同位体である13C16O(13CO)は一酸化炭素分子全体の1-5%程度で、COで観測される領域よりも密度の高い領域を観測することができる。
注3 13CO(J=3-2)輝線:
一酸化炭素分子は永久電気双極子モーメントを持つ。この電気双極子モーメントの回転により、電磁波が放射される。放射される電磁波は量子力学的に許される不連続の準位間の遷移に限られる。基底状態をJ=0とし、J=1、2、3と準位があり、J=3から2へ遷移する際に放射される電磁波であるということを示す際にCOの後に括弧書きで(J=3-2)と表記する。13CO分子のJ=3から2への遷移で放射された電磁波である場合は13CO(J=3-2)となる。
注4 CO分子の励起:
J=1、2、3と上の準位に行くためにはその分エネルギーを必要とする。絶対温度10K程度の一般的な分子雲では、J=1やJ=2の準位に多くの一酸化炭素分子が存在するが、分子雲の温度や密度が高くなると、J=3、4とさらに上の準位に滞在する一酸化炭素分子が支配的になる。このため、準位間の遷移によって放射される電磁波の強度の比(ここではJ=3-2の遷移とJ=1-0の遷移の比)が高いところでは、分子雲の温度や密度が高いということを意味する。

【論文情報】
雑誌名 : Publications of the Astronomical Society of Japan
論文タイトル : Near-ultraviolet radiation toward molecular cloud N4 in W50/SS433: Evidence of direct interaction of the jet with molecular cloud
著者 : Yamamoto, H., Ishikawa, T., Takeuchi, T. T., (全員名古屋大学理学研究科所属)
DOI : 10.1093/pasj/psae007
URL : https://academic.oup.com/pasj/article/76/2/L1/7608737

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2024-05-27 02:04:20Z
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