前編では、コード決済を中心に2019年のキャッシュレス変革をまとめた。キャッシュレス化に対してコード決済の普及は一定レベルでは貢献したが、いまだ主役はクレカである、というのが筆者の意見だ。コード決済やそのスマホアプリを用いたモバイルマーケティングが本格化するのは、早くても20年後半とみている。
19年のキャッシュレス化の動きで大きかったのはコード決済だが、今後数年のキャッシュレス化を見通すと、非接触IC決済の「NFC Pay」の普及にも注目したい。そして、コード決済やNFC Payの次に来るであろうキャッシュレス技術もまとめていく。
「NFC Pay」はいつ普及するのか?
日本で非接触IC決済といえばFeliCa技術を使った交通系電子マネーやポストペイドのサービスだが、日本を除くほとんどの国では「EMV」(Europay、Mastercard、Visaの頭文字)と呼ばれるICチップ内蔵クレカを使った非接触決済サービス「EMV Contactless」が主流だ。
筆者は決済端末に表示されるメニューの表記を引用して「NFC Pay」などと呼んでいる。最近の海外出張では欧米とアジアの一部の国(シンガポールや香港など)では、このNFC Payに対応したIC付きクレカとApple Payの利用で乗り切っており、ほぼ現金を利用していない。
NFC Payのメリットは「タッチで決済」「一定金額以下なら(ICチップ内蔵クレカで必要な)PIN入力も不要」という利便性もさることながら、現地でのキャッシングや両替が不要という点に尽きる。実際、2018年から19年にかけて北欧5カ国(デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、アイスランド)をまわった際には、全てNFC Payとクレカのみで乗り切っており、一度もユーロ以外の通貨の現金を手にしていない(フィンランドのみ流通通貨はユーロ)。正確にはデンマークで2回だけ紙幣とコインを触っているのだが、その詳細については別誌でまとめた記事を参照してほしい。
NFC Payの日本での普及状況は
海外周遊では必須となりつつあるNFC Payだが、日本での普及状況は少々寂しい。かつて、日本でも数少ないNFC Payが利用できる場所ということでNFCの聖地である沼津港へのキャッシュレスの旅をしたことがあるが、それから4年が経過しても状況はあまり変わっていない。
最近はローソン、マクドナルド、すき家、IKEAといった一部のチェーン店でも利用できるようになり、一部の個人店や実験店舗で導入されるケースもみられるが、使える場所を数えた方が早いという状況には変わりない。
理由はいくつかあり、「日本国内では大手チェーンやフランチャイズでのクレカのIC対応が進んでいない」「個人店舗導入でよく利用される『Airペイ』などの決済サービスがNFC Payに非対応」などが考えられる。
ただ、決済事業者の米Squareが提供するサービスではNFC Payに標準で対応しており、少しずつ下地はできている。2020年3月には、改正割賦販売法を受けたセキュリティ対策の取り組みで、クレジットカード加盟店のIC対応が完了する見込みだ。そこからさらに3〜5年ほどをかけてNFC Payが徐々に浸透してくるのではないだろうか。
新規カードの標準対応がNFC Pay普及の後押しに
加盟店のIC対応が徐々に増える一方で、新規または更新のタイミングで発行されるクレカがNFC Payに標準で対応するケースが増えている。筆者も手持ちのVisaカードの1枚が、有効期限を前にしてIC対応で強制切り替えが行われ、同時にNFC Pay対応となった。
クレカのNFC Pay対応は、東京オリンピックの公式スポンサーでもある米Visaがカード発行会社(イシュア)に対してNFC Pay対応を要請しており、近年のブランドデビットの拡大戦略と合わせ、日本でのNFC Pay普及の下地となっている。
またVisaと連携してブランドプリペイドを展開するKyashも、従来の磁気ストライプ方式だけでなく、ICとNFC両対応カードの2020年提供開始をアナウンスしている。「クレカだと利用開始のハードルが高い。このためクレカをベースにしたNFC Payの普及は諸外国に比べて遅い」という指摘もある日本において、ブランドデビットやブランドプリペイドが利用開始ハードルの問題を解決しつつある。
Visaの動きもあるとはいえ、コード決済同様にNFC Payがオリンピックイヤーの20年中にブレークすることはないだろう。しかし、先行してICに対応した加盟店はNFC Payへの対応を進めつつ、後から加盟した店舗は初めからNFC Payに対応すると思われるため、3〜5年後には多くの場所でNFC Payが利用可能になっているのではないかと筆者は考えている。
現在、小売や流通各社、それらにシステムを提供するメーカーやサプライヤー各社は22年から24年あたりをターゲットに設備投資を集中させ、インフラを刷新しようとしている。25年は大阪万博が開催される年であり、すでにインフラ整備では一段落ついた感のある東京オリンピックよりも、大阪万博までの対応が目標になっているというわけだ。
NFCとQRコードの次の決済も開発中
キャッシュレス決済という文脈で2019年に再び盛り上がりつつあった「NFC」と「QRコード」の2つの技術だが、その“次”も、すでに研究開発が進んでいる。
話題に出ているものとしては、スマホをポケットやカバンに入れたまま通過が可能なJR東日本の「タッチレスゲート」や、大阪メトロが現在実証実験を行っている顔認証ゲートなどだ。ロイヤルホールディングスのキャッシュレス実験店舗「Gathering Table Pantry二子玉川店」では、楽天社員限定で「顔認証決済」が利用可能になっている。いずれも、まだ内部限定の実験サービスではあるが、既存技術の“先”を見据えた点で共通している。
顔認証決済のメリットと課題
顔認証などのバイオメトリクス認証を決済に利用するメリットは「デバイスレスやカードレスで利用できる」点だ。例えば、災害や盗難に遭遇して銀行からキャッシュを引き出す手段がなくなったときでもATMを利用できたり、本当の意味で“手ぶら”でふらりと店に顔を出して買い物をしたり、食事ができるようになる。
課題としては「認証に使う顔などの生体情報はどこに記録されるのか」「認証精度や情報を管理するセキュリティは十分か」「データが利用者の想定を越えた範囲で用いられていることはないか」「生体情報を決済情報とひも付けるユニークIDを用いたとき、万単位以上のデータの照合がどれだけのパフォーマンスで実行できるか」といったことが考えられる。最終的にはデータをどのように扱うかはもちろん、利用者の意図で登録や変更、抹消が可能であるかといったことが焦点になると筆者は考える。
スマホをポケットに入れたままで決済できるように?
顔認証決済については中国のケンタッキー・フライド・チキンの店舗などですでに導入が進んでいるようだが、これとは違う発想で便利さを“先”に進めたといえるのがJR東日本のタッチレスゲートだ。広報担当者によれば「ミリ波も含め、どの技術を用いるのかについて決まっている事実は(発表時点で)ない」ということで、報道内容をうのみにはしない方がいいかもしれない。
ここで同社が目指しているのは「(ICチップを内蔵した)スマホとゲートがNFC技術なしで通信する(NFCの通信は磁界強度が理由で通信速度と距離が反比例の関係にあるため)」という部分で、両者が離れた位置にあっても通信できることが重要だ。ただ、距離を離しての通信は複数あるゲート間で干渉する可能性があり、それを防ぐためにある程度電波に指向性を持たせる必要がある。発言内にミリ波というキーワードが出てくるのは、この指向性の部分が理由なのだと筆者は考えている(周波数が高いほど指向性が高くなる)。
近年のスマホ普及率は50%を超え、今後さらにその数字は伸びてくるだろう。それだけ普及したデバイスを使って新たな顧客サービスを考えない手はなく、画期的なサービスとしてタッチレスゲートが国内外にお披露目される日が近々やってくるのかもしれない。
真にキャッシュレスが根付くのはいつか
いずれにせよ、これらが2020年に一気に導入されることはなく、翌年、そのさらに翌年といった感じで少しずつ実証実験の形で姿を現し、やはり25年くらいまでの期間で出そろうことになると予想する。大阪メトロについては明確に「大阪万博まで」という意欲を示しており、やはり25年というのが1つの節目となりそうだ。
とかく鶏と卵(ユーザー増が先か加盟店増が先か)で例えられがちなキャッシュレス普及論争だが、ガラケー時代には違和感もあったスマホが今では普及したように、周囲の環境や生活様式の変化を経て「気が付いたら現金以外の支払い手段を多く利用していた」ということになっているかもしれない。それを多くの人が認識するのが5年先なのか、10年先なのかは分からないが、2025年というのはそれまでの過程で一定のマイルストーンを達成する目安になりそうだ。
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February 01, 2020 at 06:00AM
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