12月7日から、全国大学サッカー選手権(インカレ)が始まる。多くの日本代表選手を輩出し、近年注目を集めている大学サッカー界で、桐蔭横浜大学が存在感を強めている。昨季、同大をインカレ王者に導いた安武亨監督(44)のマネジメント術を全2回に分けてひもとく。2回目は、その人柄や指導哲学に迫った。
◇ ◇ ◇
今年の元旦に「日本一監督」となった安武監督。しかし、そのキャリアは全く思い描いていたものではなかったという。サンフレッチェ広島ユースからトップチームに上がるも、2年間ほとんど試合に絡められなかった。何か自分を変えたいと、すがる思いで来たのが桐蔭横浜大だった。風間八宏氏(62)が監督に就任すると聞きつけて、進学を決意した。ただ4年後に再びプロに戻ることはなく、一般企業に就職した。ネクタイメーカーに勤めた。営業マンとして馬車馬のように働いていると、05年に始まった「クールビズ」の影響で会社が倒産。九州電力のグループ会社の派遣会社に転職した。そこで派遣スタッフたちの面談や営業をしていたタイミングで、07年に桐蔭横浜大が関東2部に昇格。人手が必要になり、コーチの打診を受けた。当時、サッカー界からは離れ、趣味で草サッカーをやる程度だった。「指導者をやるなんてみじんも思っていなかった」。
家族もおり、プロのサッカーコーチとして食べていける自信はなかったため、大学職員として働きたい旨を伝えた。28歳だった。そこからサッカー漬けの日々が始まる。午前9時に大学職員としての仕事が始まり、午後6時からサッカー部の練習。家に帰るのはだいたい午後10時過ぎだ。子どもは3人で、中学2年、小学6年、小学4年。「朝食はおれの係。保育園の送りは、3人いるから8年やった(笑い)。今となってはまたやりたいね。子育てはそれだけ。でも仲は良いよ。あんまり関わらない方がいいんだよ(笑い)。(一緒に)いる時間が貴重じゃん」と豪快に笑う。
部のスポンサー集めのために、営業活動も一手に担う。近年、他大学では学生たちが自らスポンサーを集める活動などに注目が集まるが、「学生は授業に出てサッカーするのが仕事だから。もちろん学生にとっていい経験にはなるんだけど、でも同時に、納得せずにやると不満を生む。それがメインなるとちょっと違うなっていう。それで変な不満が出てチームが壊れるんだったら自分でやった方がいいかな」と持論を展開した。
選手のスカウト活動も暇を見つけて行う。ヘッドコーチと手分けしながら高校年代の大きな大会などに顔を出しているという。桐蔭横浜大の水に合う選手を集める。
「大事なのは人間性。人間性がいいやつは伸びるし、人間性が悪いというか、向上心がなかったりするやつは大体伸びないから。(世代別)代表だろうがなんだろうが取らない。ハードワークできないとダメ。できないやつは使わないからって言って入学してもらう。本当に使わないからね。だから、そういうことができない人材は取らないようにしています」
安武監督が大切にする人柄の良さは、サンフレッチェ広島時代にさかのぼる。「サンフレを作った今西和男さんっていう方がいて、その人に『サッカー選手である前に、よき高校生であれ、よき人材であれ』っていう風に言われていた。だから今も『サッカー選手である前に良き大学生じゃないといけないし、いい人材じゃないよ』っていいます」
広島産の人柄の良さが自由な風土をまとめ上げている。13人のプロ選手を含む昨季の4年生が抜けた今季は惜しくもインカレ出場を逃したが、関東1部で7位。毎年選手が20人近く入れ替わる組織で強さを保っている。
「俺は風間さんのまねしたり、八城総監督のまねしたり、今西さんの教えをまねしたり。今まで出会った人のいい部分をどんどんみんなに伝えているだけですよ」
改めて大きな組織を運営する上での秘訣(ひけつ)を聞いた。
「みんながどうやったら気持ちよくサッカーできるかなっていうのは、結構考えていると思います。だから組織として、もちろん嫌なこと、頼まれごととか、やらなきゃいけないことって当たり前にあるじゃないですか。そういうときは、『やらなきゃいけないから、ごめんな』といってやってもらいます。でも駒としては使わない。人として扱う。事情もちゃんと説明して、こういう事情で手伝ってもらわなきゃいけないから手伝ってくれって言う」
勝利至上主義ではなく、学生たちの満足感を大切にしている。
「もちろん勝った方が絶対うまくなるから、勝ちを目指すけど、みんなプロになりたくて(大学に)入ってきている。桐蔭のために日本一取りますって入ってくるやつっていないので。プロになるためにみんな入ってきているから、優先順位はプロになる。結果、試合に勝った方がプロになれるから勝ちを目指す。卒業生たちが満足することが大事。日本一取るために何をするかとかじゃなくて、みんなが桐蔭に来てよかったって思うために何をするかっていうところなので、そこがうちの特徴かな。たぶん卒業生でうちを悪く言うっていうのは少ないと思います。0ではないけど。やっぱり楽しかったっていって卒業してもらいたいし、学生の満足度をどうやって上げるかっていうところが大事」
選手と立場は違うが、同じ目線で同じ人間、大人として接する。そうして信頼関係を構築している。
「おれは監督として選手を選考しなきゃいけない立場だけど、選手は一生懸命頑張んなきゃいけない立場。だから、選手にハードワークを求めるなら、俺だけ休んでいるわけにはいかないから、俺は走れない分、自分の時間を削ってハードワークする。対等。おれが偉いわけじゃない。選手が偉いわけじゃない。一生懸命頑張る集団なだけ。選手だろうがスタッフだろうが同じ」
練習を見ていると安武監督自身が積極的に声を出す。ボール回しに混ざって選手とプレーもする。
「みんながやらなきゃいけない空気感を作る。空気感さえあればみんなやるから。やらないのが恥ずかしいみたいになるから。それさえできちゃえば、何言わなくても勝手にやる」
プロサッカー選手を目指すことを大切にしながらも、安武監督が大切にしている指導哲学がある。
「サッカーは本当に人間力を育てるツールだってずっと言っている。何が大事かって、サッカーうまくなることじゃなくて、サッカーを通じて人間力を育てることが大事だっていうことは選手たちにずっと言っていて、プロになるっていう目標はもちろんあるけど、そこじゃないぞっていう風に。サッカーがうまくなるために全力を尽くすことで、どういう人間になるのかっていうのがすごく大事」
安武監督について、OBの川崎フロンターレFW山田新(23)は「優しいお父さん、おじちゃん」、DF山根視来(29)は「何でもオープンでフレンドリー。なんでも話せる人。ムードメーカー」と評した。
とにかく明るい。根っからの「陽」の人だ。記者が練習をグランドの端で見ていると、「次からはサッカーできる格好で来なよ!」と冗談か本気かわからない口調で呼びかけてくる。気がつくとチームの一員のような感覚になっている。そんな“安武マジック”にかかって、強い集団が生まれいるようだった。(終わり)【佐藤成】
からの記事と詳細 ( 【桐蔭横浜大】「学生の満足度をどうやって上げるか」“安武マジック”で ... - ニッカンスポーツ )
https://ift.tt/higpqGU
No comments:
Post a Comment